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サッカーの日本代表はワールドカップ(W杯)カタール大会前半の主役だった。1次リーグでサッカー大国のドイツとスペインを後半の逆転で破り、世界に衝撃を与え、興奮を呼んだ。
米紙ニューヨーク・タイムズは「これほど大会を盛り上げ、活気づかせたチームはなかった」と報じ、称賛した。
監督、選手らは日本がいまだ到達していない8強に勝ち進み「新しい景色を見る」ことを目標に掲げた。だが決勝トーナメント1回戦でクロアチアに延長、PK戦で敗れ、過去に3度はね返された壁を越えることはできなかった。前回ロシア大会で2度のPK戦を制して準優勝したクロアチアの勝負強さに屈した格好だ。
切り札、三笘薫は「全部が足りなかった」と号泣し、多くの選手が「ふがいない」と同じ言葉を口にした。攻守の要、遠藤航は「この悔しさは明日から次のW杯へ向けた準備に」と話した。誰一人、「感動をありがとう」といった慰めを、決してよしとしない。そこに新たな希望をみる。
初の中東、初の秋冬開催といった異例ずくめの大会で、試合に最も影響を与えたのは選手交代枠が従来の3人から5人(延長では6人)に増えたことだろう。
森保一監督はこれをフルに活用し、ドイツ戦では後半、超守備的布陣に変えて試合を安定させると一気に攻撃的選手を投入して逆転に結びつけた。スペイン戦では後半開始とともに攻撃的布陣に変えて逆転すると、守備の選手を逐次投入して後ろにふたをした。
海外のメディアは「森保マジック」と呼んでその采配を絶賛したが、半面、それは監督の策が当たったということで、必ずしも地力の勝利を意味しない。
冷静に振り返ればドイツ戦もスペイン戦も圧倒的にボールを支配された。采配によって得た少ない好機を確実に勝利に結びつけた選手の集中力をたたえたいが、個々とチームが試合を通じて五分に渡り合えなければ8強やそれ以上に勝ち進むことが難しいことを示す大会でもあった。そんなことは、選手が一番分かっている。
ともあれ、厳しい日程を戦った選手、スタッフにはご苦労さまといいたい。選手は耳をふさぐかもしれないが、あえて「感動をありがとう」という。そして4年後には、さらなる歓喜を。
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2022年12月7日付産経新聞【主張】を転載しています