何をいまさら、といった感想だ。世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長が記者会見で中国に対し「大変失望した」と表明した。
新型コロナウイルスの起源解明に向けた国際調査団に対し、中国が入国を許可していないことへの批判だ。
WHOは昨年12月、調査団を今月第1週に中国に派遣すると発表していた。
調査団は日本の前田健・国立感染症研究所獣医科学部長を含む各国の専門家10人で構成され、中国内で自主隔離期間を経て新型コロナの感染源となった湖北省武漢に入る予定だった。すでに自国を出国して引き返した団員もおり、他の団員も出発直前で足止めを余儀なくされている。
テドロス氏は「できるだけ早期に調査が開始されることを切望している」とも述べた。だが、そもそも中国寄りの言動を繰り返し、非難の的となってきたのは、当のテドロス氏である。
中国で感染拡大が深刻化した昨年1月末、テドロス氏は北京で習近平国家主席と会談し、「中国政府が揺るぎない政治的決意を示し、迅速で効果的な措置を取ったことに敬服する」と述べた。
日米などが求めた台湾のWHOへのオブザーバー参加を、テドロス氏ら執行部は中国の意をくんで拒否した。初期の感染封じ込めに成功した台湾の知見は生かされず、感染症との戦いに空白域を作る誤った判断だった。
習氏は昨年5月、テレビ会議で開かれたWHO総会の演説で新型コロナ対応でWHOが「重大な貢献」をしたと称(たた)え、自国については「終始一貫してオープンで透明性があった」と述べた。
一方でトランプ米大統領はWHOを「中国の操り人形」と呼び、米国のアザー厚生長官は「(中国からの)情報入手にWHOが失敗したことが感染が制御不能になった主要原因だ」と述べていた。
新型コロナは武漢で発生し、中国からの渡航者、帰国者を通じて全世界に蔓延(まんえん)した。これは厳然とした事実だ。発生源の調査が必要不可欠であることは、誰でも分かる。いまだに調査団の入国さえかなわない現状が異常なのだ。
テドロス氏の「失望」が本意であるなら、まず自らの過去の発言を反省し、表明すべきだ。その上で中国の謝罪を求め、調査を貫徹すべきである。
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2021年1月7日付産経新聞【主張】を転載しています