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新型コロナウイルスの起源解明をめぐり、世界保健機関(WHO)が中国・武漢で行った調査の報告書が3月30日、公表された。だが、国際機関が携わった報告書と呼べる代物ではなかった。
世界で新型コロナとの戦いが続く中で、極めて残念である。解明が遅れれば、新型コロナや将来襲ってくる未知のウイルスへの備えがとりにくくなる。
調査に対して中国から全面協力が得られず、中国側と記述を調整した「共同報告書」だったことが、不十分な内容にとどまった主な原因である。
中国と親しいテドロスWHO事務局長でさえ「(中国側から)データが十分に提供されず、広範囲にわたる分析が行われたとは思えない」と語った。テドロス氏は調査団の再派遣を表明したが、中国政府が姿勢を改めない限り、同じことの繰り返しになるだろう。
報告書は新型コロナウイルスの感染経路について、宿主の動物から、中間宿主となる別の動物を介して人に広がった可能性が「非常に高い」とした。中国科学院武漢ウイルス研究所からウイルスが漏洩(ろうえい)した疑惑については「極めて可能性が低い」とした。
中国外務省の報道官談話は「科学的で専門的な精神を称賛する」と、報告書を高く評価した。独り喜ぶ姿は滑稽に映る。
日本や米国、英国、オーストラリア、韓国、イスラエルなど14カ国の政府は声明で、「調査の実施が大幅に遅れ、完全な元データや検体に実際に接していない」として懸念を表明した。サキ米大統領報道官は、報告書が「部分的で不完全な見方」を提示するにとどまったと批判した。
データや検体の不備に加え、WHOの調査団の現地調査は中国側が同意した場所に限られた。
これでは科学的な分析は難しい。にもかかわらず、感染経路についても中国政府ばかりが喜ぶ内容が示された。
テドロス氏でさえ不十分さを認めたのだから、報告書の名を冠すること自体が疑問である。
中国政府は新型コロナの初動段階で隠蔽(いんぺい)に走った。今回の報告書が、それをなかったことにしたい宣伝に利用されてはたまらない。WHOは人類のために新型コロナの起源を解明せねばならない。科学的調査の自由な実施を認めるよう中国政府に迫るべきだ。
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2021年4月2日付産経新聞【主張】を転載しています