コロナ禍で多くの人生や社会が変わってしまった2020年。想像を絶する感染者と死者を出した戦後最大の悲劇は2年目に突入した。
中国由来のウイルスが世界に命の重みを改めて思い知らせたが、同時に力による現状変更で国際秩序に挑戦し、人権を踏み潰(つぶ)す中国の姿も浮き彫りになった。2021年はこの厄介(やっかい)な隣国から自分たちをどう守るかを考え、行動しなければならない年になるだろう。しかし、そのことの壁になる新聞がある。いや、壁というより「中国のために」報道を続ける新聞である。
昨年9月、退陣前の安倍晋三首相が新たな安保政策として敵のミサイル攻撃を防ぐため、これまでの迎撃能力を上回る対策を検討して年内に結論を出すことを発表した。
これを受けて12月18日、敵の攻撃圏外から対処できる「スタンド・オフ・ミサイル」の国産開発が閣議決定。また、配備断念のイージス・アショア代替策として「イージス・システム搭載艦」との名称で新型イージス艦2隻の建造計画も明らかになった。
口には出さずとも、まさに中国を念頭にした防衛策である。抑止力を高めるためには当然すぎる決定といえる。
しかし、中国を利する論評はすぐに表れた。おなじみの朝日が12月19日付社説で〈破綻(はたん)した陸上イージスの代替策と敵基地攻撃能力の検討は、安倍前政権の「負の遺産」である。きっぱりと決別すべきだ〉と書き、毎日は、〈日米安全保障条約の下、日本は守りの「盾」、米国は打撃力の「矛」としてきた役割分担の見直しにもつながりかねない。専守防衛をなし崩しで変質させることは許されない〉(20日付社説)と非難した。
これほど空虚な論をよく続けられるものと感心する。両紙には、この10年の世界の激変が見えないのだろう。「百年の恥辱」を晴らして「偉大なる中華民族の復興」を果たし、世界の覇権奪取を広言する習近平国家主席。この中国の台頭と膨張は、歴史を米ソ対立の「冷戦」から米中対立の「新冷戦」の時代に変えた。前者の最前線が欧州なら、後者の最前線は東アジアだ。
いかに抑止力を高め、国民の命と領土を守るか。政治もマスコミもその一点に向かわなければならない。“アジア版NATO”の必要性が叫ばれる所以(ゆえん)だ。だが尖閣を虎視眈々(たんたん)と狙い、外相が「わが国の海域に日本の偽装漁船を入れないようにせよ」と言ってのける中国を利する報道を日本の新聞はいまなお続けている。国民の命に立脚した視点が皆無であることが信じ難い。
筆者:門田隆将(かどた・りゅうしょう)
作家・ジャーナリスト。昭和33年、高知県出身。中央大法卒。新刊は『疫病2020』。
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2021年1月3日付産経新聞【新聞に喝!】を転載しています