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百貨店のバレンタイン特設売り場に、にぎわいが戻ってきた。81ブランドをそろえた松屋銀座(東京都中央区)で今年注目を集めるのは、日本人ショコラティエだ。
かつては「日本初登場」をうたう海外ブランドや、有名ショコラティエが来日し、祭典を盛り上げた。しかし「コロナ禍で、海外への行き来がしづらくなり一変しました。円安や物価高の影響もあり、今年は作り手、消費者とも『国産』に目が向いている」と同百貨店食品部バイヤー、小泉翔さんは話す。
子育てをしながら、自分の味を追求する女性ショコラティエも注目されている。佐藤美歩さん(37)は、昨年、自身のブランド「mills(ミルズ)」を立ち上げた。
限定販売中のトリュフチョコは、ころんとしたハート形。出身地である北海道のエゾベリー(ハスカップ)と東京・練馬産のあまどりいちごを使用。繊細な香りと酸味を生かすため、加熱は極力抑えた。合わせる食材のおいしさをどう引き立たせるか-。チョコレート作りのおもしろさをそう説く。
挫折を経験して
子供の頃から母とお菓子を作るのが好きだった。札幌の製菓学校を卒業後、ホテルのパティシエなどを経て、結婚を機に上京。産休後はホテルの現場に戻ったが、同時に自分のキャリアにチョコレートの技術が足りない、と痛感。東京・広尾の専門店「アルノー・ラエール」で本格的に勉強を始めた。
挫折もあった。国内最大のコンテスト「ジャパン・ケーキショー」のために2カ月かけてチョコで大きなキリンのオブジェを作った。だが当日、会場へ運ぶ際に全壊。「ショックで泣き通しました。自信があったし、賞がほしかった。子育てをしながらの仕事も腕も認めてもらいたかった」
その後も、子供が保育園や小学校に通う時間に腕を磨いた。いつしか食べる人の「おいしい」の一言が原動力に。「おいしいといわれると『これで合っているんだな』と、答え合わせをしている感覚」。現在は通販や百貨店の催事が中心だが、ファンを増やし、いつか実店舗を持ちたいという。
菓子の世界では結婚、出産で仕事を断念する女性が多く、後輩から相談されることもある。「お菓子は朝のうちに作って後は販売員に任せられる。保育園さえ決まれば大丈夫、とアドバイスしています」
小学生になった子供2人は、今はよき理解者に。「3年生の長女には『もっとご飯を食べなきゃだめ』なんていわれ、どちらがお母さんか分からない。いつも元気をもらっています」
筆者:榊聡美(産経新聞)