アフリカ大陸の東端にある半独立状態の「ソマリランド共和国」の「首都」ハルゲイサで8月17日、台湾が称する「中華民国」の「青天白日満地紅旗」が高らかに掲揚された。
国際社会からは承認されていないが、1991年にソマリアから分離独立を宣言し、実質的に国家として機能するソマリランドが7月、台湾と代表機構の相互設置で合意した。双方は医療、技術、教育などの分野で協力を深めるという。
17日にハルゲイサにおける台湾の代表機構の開設式が行われ、台湾の呉●(=刊の干を金に)燮(ご・しょうしょう)外交部長(外相に相当)がテレビ画面を通じて、その様子を見守った。中国の激しい外交攻勢に押された台湾の蔡英文政権は、発足後約4年間で、22カ国あった外交関係のある国のうち、7つも中国に奪われた。
在外公館の閉鎖に伴う撤退を何度も経験してきた台湾の外交関係者らは、久々の「海外公館開設」の中継を見て、感慨深い気持ちになったに違いない。
このところ台湾の外交は反転攻勢を始めている。9日には米国から79年に台湾と断交して以降、最高位の高官であるアザー厚生長官が訪台した。8月末にはチェコのビストルチル上院議長が、約90人の代表団を率いて台北を訪れる。いずれも中国の猛反対を押し切っての訪台で、台湾にとっては大きな「外交勝利」だ。
米国が中国との対立深刻化にともない、中国包囲網を構築していくなかで、米国に近い国々が台湾を重視するようになった背景がある。加えて台湾当局が「先手防疫」を通じて新型コロナウイルス対策で成功したことも注目された。
マスクや人工呼吸器などの医療物資を積極的に対外支援したことで、国際社会で台湾が影響力を強めた。
世界保健機関(WHO)など、中国の妨害で台湾が排除された国際組織に「台湾を入れるべきだ」と訴える声も世界中で広がっている。米国がWHO脱退の意向を表明したため、米国と台湾が中心となり、新しいWHOを立ち上げるとの観測もある。台湾の外交部は「事実ではない」とこれを公式に否定している。
だが、訪台したアザー氏は記者会見で、WHO脱退後の方針や台湾の新組織加入について、「公衆衛生の向上を図るための適切な手段を国際社会と模索していきたい。台湾とも、もちろん協議する」と前向きな姿勢を示した。
また、台湾を民主化に導いた李登輝元総統が7月末に死去した。9月に予定される葬儀も、台湾の存在感を国際社会にアピールする場になる可能性がある。
蔡政権は世界各国から要人を招待し、弔問外交を盛大に展開したいとの思いがあるとされるが、世界的に新型コロナ流行が収まらない中で課題は多い。中国からの猛反発も予想される。
頼清徳副総統が中心となり、19日にも関係者による会議を開き、葬儀の日程や実施方法などを最終調整する。
ある元立法委員(国会議員)は「今年は(1月の)総統選挙から始まり、コロナ防疫、李登輝氏の死去など、世界に注目されることが多く起きた。このチャンスを生かして、孤立している台湾の外交環境を一気に改善したい」と話した。
2020年は台湾の歴史に残る一年になりそうだ。
筆者:矢板明夫(産経新聞台北支局長)
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2020年8月19日付産経新聞【矢板明夫の中国点描】を転載しています