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日本が国際機関に申請している国内最南端の沖ノ鳥島(東京都小笠原村)南方の大陸棚延長について、周辺の海洋調査を活発化する中国が地形的なつながりを否定する複数の科学論文を発表したことが5月29日、分かった。日本政府が「日本の過去の調査と比べ、最新機器を用いて広範囲・高密度で実施された」と分析したことも判明。政府内には「『科学』の力による現状変更の試み」との見方があり反証論文に基づく攻勢への警戒感が強まっている。
中国は今後、日本の延長大陸棚の設定を阻止するため、論文で示した「最新の科学的知見」に沿って反論を強めるとみられ、審査に当たる国連大陸棚限界委員会の判断で日本が劣勢に立たされるリスクが現実味を帯びる。申請内容の補強が不可欠な情勢で、延長大陸棚の設定による海底地下資源の開発権獲得に向け、再調査によるデータ取得や分析など戦略的な取り組みが急務となる。
日本政府は平成20年の大陸棚延長の申請に当たり、沖ノ鳥島から太平洋のパラオに連なる「九州・パラオ海嶺南部海域」を含む広大な海域で海上保安庁を中心に関係機関が構造探査などを実施。当時は世界最大規模とされたものの、既に10年以上が経過している。
延長申請は基点の沖ノ鳥島を「岩」と主張する中国などの反対で結論が先送りされたが、中国はその後、沖ノ鳥島周辺の日本の排他的経済水域(EEZ)内で無許可調査を継続。30年以降はEEZ南方の公海でも中国の政府機関や大学など複数組織が集中的な調査を実施した。
日本政府は令和2年、これらの集中調査について分析をまとめ「中国が政府として主導した可能性」を挙げ、日本や、南側から同様の申請を行うパラオの大陸棚延長に関連した「何らかの意図」を指摘。この海域に自国の領土を持たない中国が拡張主義的な動きを強める背景には軍事戦略上の狙いが指摘されている。
日本政府が出方を探っていた中国側の集中調査の結果は、昨年末から今年初めにかけて英語論文の形で相次いで発表された。筆頭筆者はいずれも、大陸棚限界委員会の中国代表委員が所属する政府部門「自然資源省」に在籍。中国系の学術誌に6本の論文が掲載されているのが確認された。
論文は、九州・パラオ海嶺について、地殻の厚みから日本列島などを構成する「大陸地殻」ではなく海洋プレート表面の「海洋地殻」と指摘し「東西の断層で分断されている」などと主張。地形の特徴などを含め、国連海洋法条約で定める大陸棚に含まれないと示唆している。
海保が論文データや調査船の装備などを精査したところ、中国側が高性能の測深機など最新の観測機器を運用していることが判明。過去の日本の調査と比べて広い調査範囲で、間隔をより狭めて密度を高めていたという。
中国側の動きを踏まえ、自民党宇宙・海洋開発特別委員会委員長の新藤義孝衆院議員は「世界6位のEEZ面積を持つ我が国の海洋権益を確保するためには、政府・民間・関係機関が連携した戦略的取り組みの抜本強化が必要だ。新たな調査やデータ取得、国際学会への論文提出など、実施体制・予算措置の大幅拡充を政府に求めていく」と指摘した。
■大陸棚延長 沿岸から200カイリ(約370キロ)のEEZの海底下を大陸棚と呼び、地形・地質的に陸とつながっていると証明できれば国連海洋法条約に基づき延長が認められる。日本政府は平成20年、国連大陸棚限界委員会に7海域の延長を申請、24年に四国海盆海域など4海域について認める勧告が採択された。九州・パラオ海嶺南部海域は判断が先送りされ、日本政府は当時、「早期に勧告が行われるよう努力を継続する」との考えを示した。