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中国の人権弾圧に対して、日本政府は及び腰のままでいいのか。人権問題を重視する国ならば、いまこそ中身のある対中制裁に踏み切るべきだ。
日本主導で人権への懸念明記
3月に行われたバイデン米政権発足後初の日米外務・防衛担当閣僚協議(2プラス2)の共同文書では、中国を名指ししたうえで「ルールに基づく国際体制を損なう、地域の他者に対する威圧や安定を損なう行動に反対する」と明記した。さらに、日本側からの働きかけで「香港及び新疆ウイグル自治区の人権状況について深刻な懸念を共有した」との一文が盛り込まれた。
中国は習近平体制となってから、軍備拡張を進め、巨大経済圏構想「一帯一路」を通じた中国中心の国際秩序の構築を目指している。南シナ海では人工島を建設し軍事拠点化を進め、東シナ海では尖閣諸島(沖縄県石垣市)を日本から奪おうとしている。自由と民主主義の台湾を併合しようと圧力を加えている。香港を弾圧し、ウイグル人、チベット人、モンゴル人などへの人権侵害を続けている。
こうした事態を看過できないと受け止めたからこそ、2プラス2の共同文書では、中国からの反発が予想されても、中国を名指しして非難し、人権問題にも踏み込んだのではなかったのか。米側からも日本の決意を示したものとして高く評価された。
ところが、米国や英国、欧州連合(EU)などが相次いで中国当局者に対する資産凍結などの制裁を科したにもかかわらず、そこに日本の名前はなかった。先進7カ国(G7)で日本だけが制裁措置実施から外れている。
人権に距離感は関係ない
ある政府高官は「欧米は中国と遠く離れているが、日本は距離的にも近い。経済的な結びつきも強い。対応がおのずと異なるのはやむをえない」と説明する。果たしてそうだろうか。
菅義偉首相は自民党の若手議員時代、北朝鮮による拉致事件の解決には日本独自の制裁の法制化が必要だと主張し、北朝鮮当局者らの人的往来や送金規制、北朝鮮籍船舶の入港禁止などの制裁措置を主導した。
日本政府が本当に中国の人権状況に「深刻な懸念」を持っているならば、法的措置、外交的措置などあらゆる手段を講じていくべきだ。
米財務省はかつて北朝鮮の資金洗浄に関与した疑いで、マカオの金融機関「バンコ・デルタ・アジア」に金融制裁を発動した。預金凍結や金融機関の取引自粛により、北朝鮮は大きな打撃を受けたとされる。中国に対する制裁もこのような、単なるポーズではない実質的な内容にすべきだろう。人権問題に対処するのに、中国との距離感の有無など関係ない。
筆者:有元隆志(産経新聞月刊「正論」発行人)
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国家基本問題研究所(JINF)「今週の直言」第779回(2021年3月29日付)を転載しています。