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憲法改正の手続きに関する国民投票法改正案が6日の衆院憲法審査会で可決された。自民、立憲民主両党は6月16日までの通常国会会期中に成立させることで合意した。これにより改憲に向けた機運が高まることを期待する。
国民投票法は憲法改正の具体的な中身ではなく、手続きを定めているにすぎない。にもかかわらず2018年6月の改正案提出以来、8国会、3年近く継続審議となった末、ようやく可決された。ここまで時間を浪費したことは、国会議員が主権者たる国民を信用していないと批判されても仕方がない。憲法改正の国民投票は、国民が主権の行使に直接参加できる貴重な機会である。その機会を奪ってきたのが、憲法で「国権の最高機関」と規定されている国会だ。
向こう3年間の棚上げを許すな
改正案自体にも懸念すべきことがある。6日の自民党と立憲民主党の幹事長会談で、改憲の賛成、反対両陣営が国民に支持を呼び掛けるCMの規制をめぐり、施行後3年をめどに法制上の措置を講じることを付則に盛り込むよう立民側が提案し、自民党が受け入れた。付則をめぐり立民からは早くも「3年の間は憲法本体の議論は難しい」との声が出ている。非公開で議事録も作成されていない自民と立民の「密室」での話し合いで、どちらにも都合よく解釈できる「合意」により、改憲論議が先送りされることになったら言語道断である。
憲法について不断に論じるべき立場にいるのが国会議員だ。日本を取り巻く厳しい安全保障環境、新型コロナウイルス禍の中、本来ならば具体的な改憲内容に踏み込んで議論を展開すべきにもかかわらず、国会はその責任を全く果たしていない。
菅義偉首相も憲法改正に意欲があるか疑わしい。首相は憲法記念日の3日に行われた憲法改正を訴える公開憲法フォーラムにビデオメッセージを送り、新型コロナウイルス禍で「緊急事態への備えに対する関心が高まっている」と述べ、憲法を改正して緊急事態対応を明記する必要性を訴えた。ところが、7日の記者会見で、緊急事態条項がなければ取れないような感染症対策について具体的に説明するよう求められると、「落ち着いたら検証して対策を考える必要がある」と答えただけだった。日頃から憲法改正を考えていたら出てこない発言である。
国民投票法だけで保守層は満足しない
7日付の朝日新聞によると、菅首相は憲法改正を掲げてきた安倍晋三前首相ができなかった「(国民投票法)改正案成立という成果を手に入れた。首相には、今秋までに予定される次期衆院選や、自民党総裁選をにらみ、党の支持基盤である保守層の支持を固めたいとの思惑がある」という。
よもや首相は、朝日が書くように改正案成立だけで「成果」とは捉えてはいないだろう。保守層は中国からの脅威が深刻化するなかで、憲法9条の自縄自縛のまま自衛隊が活動を強いられることのないよう憲法改正を求めているのであって、国民投票法改正案成立だけで満足しているわけでは決してない。
筆者:有元隆志(産経新聞月刊「正論」発行人)
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国家基本問題研究所(JINF)「今週の直言」第789回(2021年5月10日)を転載しています。