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東芝の株主総会の運営が公正でなかったとする外部調査報告書が公表された。東芝が経済産業省と一体となって「物言う株主」の株主提案権の行使を妨げたとし、そのために経産省が外為法の問題がないにもかかわらず、その規制をもって介入したとのストーリーに仕立て上げられている。
しかしこれを鵜呑みにした報道に惑わされず、実態を冷静に見る必要がある。
まず、この外部調査を行ったのは「物言う株主」が選任した弁護士であり、およそ第三者とは言えない。また報告書を見ると、東芝側の膨大なメールを基にして、事実関係の確認もせず、一方的に推論しているに過ぎない。
懸念された中国への技術流出
経産省にも説明責任がある、という論調も一部にある。梶山弘志経産相は株主総会への国の介入を明確に否定したうえで、国の安全の観点から重要な事業、技術を確保すべく当然の対応をしたとしている。そして、それ以上の詳細には触れない。安全保障に関わる事項について必要以上に説明しないのは国際的に見ても当然だ。ましてや、外為法に基づく審査内容について、公に詳細を説明するのは、政府の安全保障の手の内を明かすようなものだ。こうした説明がないことをもって「不透明だ」との批判はむしろ安全保障音痴を露呈しているようなものだ。
しかも今回の案件は、公開資料だけでも安全保障上の懸念を指摘できる。例えば、昨年の株主総会での株主提案の資料を見ると、米国によって安全保障上の懸念から輸出禁止対象にされた中国の半導体受託生産最大手、中芯国際集成電路製造(SMIC)の社外取締役を務めた人物を東芝の社外取締役に選任するよう提案している。
経産省としては技術流出の懸念がないか、チェックをしない方がおかしい。提案をした「物言う株主」の背景や取締役選任の中身を東芝からも確認するのは当然だ。改正外為法においても、国の安全にかかわる重要産業の場合、投資を受け入れた後、取締役の選任などで生産基盤や技術の維持に懸念がないか国が審査することになっており、関係者への情報収集もできる。これが国による不当な「介入」や「圧力」に当たらないのは明らかだ。
「物言う株主」の権利より安全保障
東芝は過去に粉飾決算などコンプライアンス面で何度か不祥事を起こしたことがあり、今回も「物言う株主」に企業統治のもろさを付かれたという面もあるだろう。
しかし、安全保障に関わる問題と企業統治の問題は明確に峻別すべきだ。そのうえで優先すべきは「物言う株主」の権利よりも国の安全保障であるのは当然だ。経産省は東芝の生産基盤の切り売りや技術流出がないよう守るのが目的であって。東芝の経営体制まで守ろうとしているのではない。東芝は企業統治の問題として調査と説明責任を果たすべきだが、経産省は安全保障上の対応を揺らぐことなく粛々と進めていくべきだ。
筆者:細川昌彦(国基研企画委員・明星大学教授)
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国家基本問題研究所(JINF)「今週の直言」第804回(2020年6月21日)を転載しています