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山梨県と東京大学が、ドローンや人工知能(AI)などの最新技術を使って富士山火山防災対策に連携して取り組む協定を結んだ。3月に噴火時のハザードマップが17年ぶりに改定され危機感が高まっている中で、重要な対策になる。同時に、この連携で得られる技術やノウハウは、惑星探査機「はやぶさ2」の次世代計画に活用される。富士山を火星の衛星に見立て、観測や画像解析、処理技術を強化する試みが始まる。
落石多発地点の特定も
今回の防災連携では、可搬型の高速・大容量通信規格の「5G」基地局を使って、ドローンが撮影した画像を観測所などに転送し、AIを使って災害の状況を把握していく。人の立ち入りが難しいエリアを観測できることが最大の特徴だ。
富士山噴火を想定すると、噴火口はどこか、マグマ噴出量はどのくらいかなどを、地上から観測することは難しい。だがドローンを使えば、溶岩流の状況なども含めリアルタイムでさまざま事実が確認でき、速やかな避難誘導につながる。
また、日常的に定期観測することで、地形の変化や岩石の細かい移動状況も把握できる。落石多発の危険地点の特定や斜面崩落の予測など、噴火以外の防災面での効果も期待される。
重要な画像関連技術
東大にとっては培った技術を地域の課題解決につなげる使命を果たすことが第一義だ。だが同時に、ポスト「はやぶさ2」プロジェクトである宇宙航空研究開発機構(JAXA)主導の火星衛星探査計画「MMX」に向けた技術向上を図る狙いもある。
富士山の5合目以上は裸地が広がり、電源設備がほとんどなく通信環境も脆弱(ぜいじゃく)という過酷な環境だ。酸素の有無、重力の違いはあるが、はやぶさがサンプルを持ち帰ってきた小惑星に近い環境が、富士山5合目以上に広がっているという見方ができる。
今回の連携によって「(惑星の)着陸地点選定などに不可欠な上空からの表面撮影の技術に応用できる」と説明するのが、東大大学院工学系研究科の宮本英昭教授。はやぶさ2プロジェクトにも参画し、今回の富士山防災対策でも主導役の1人だ。
惑星探査機が上空から撮影した画像には位置情報が入っていない。そのため、ジグソーパズルのように、数多くの撮影画像をAIを使って組み合わせて、惑星の全体像を把握したうえで、着陸地点を決定してきた。これらの一連の画像関連技術を、ドローンと探査機の違いはあるが、富士山で実験するというのが、隠された狙いだ。
けた違いのサイズ感
これまでのプロジェクトの「イトカワ」「リュウグウ」は小惑星だったが、MMXのターゲットは火星の衛星「フォボス」。大きさが決定的に違う。
イトカワの平均半径が約160メートル、長径が500メートル。そろばんの玉のような形状のリュウグウは直径が約900メートル。これに対し、フォボスは最も短い径が17・7キロ、最も長い径が26・5キロとけた違いの大きさだ。それだけに、表面積も広く、全体像把握には膨大な画像処理が必要になる。
そこで期待が高まるのが、裾野の南北径約37キロ、東西径約39キロの富士山。「サイズ感として最適で、ここでのノウハウが、フォボスの全体像把握の効率を上げることになる」と宮本氏は強調する。実地と作成画像の違いも確認でき、AIの学習効率を大幅に引き上げることにつながる。
山梨県にとっては、防災面での大きな貢献、東大にとっては、ポストはやぶさ2に向けた大きな実験場となり、一石二鳥の大きな連携と位置付けられる。
高さ日本一の富士山の魅力は尽きないが、世界一とされる宇宙開発技術に大きく貢献するという新たな役割も加わった。