新疆ウイグル自治区トルファン市を視察する習近平氏
=7月14日(新華社記者=AP)
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2019年12月、北京で開かれた安倍晋三首相(当時)と中国の習近平国家主席の首脳会談の際である。安倍氏が中国政府による香港弾圧問題に続いて新疆(しんきょう)ウイグル自治区の人権状況を取り上げ、透明性のある説明を求めると、習氏は絶句した。「香港ならまだしもウイグルまで…」。
その後、中国の王毅外相らは日本側に対し、同様に行われた習氏と韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領の会談を引きこう詰め寄ってきたという。「文氏はウイグルどころか香港問題にすら触れなかったのに」。平気の平左を装う中国がその実、いかに国際社会からの人権問題指摘を気にしているかが分かる。
2008年5月、国賓として来日中の中国の胡錦濤国家主席と安倍氏を含む4人の首相経験者との朝食会でも、安倍氏の発言で緩い空気が一変したことがあった。中国当局に逮捕されたウイグル人日本留学生の釈放を求めたのである。胡氏は「正しい法執行がなされているか調べる」と答えた。
国連人権高等弁務官事務所が8月31日、ウイグルに関する「深刻な人権侵害」を報告したことに対し、中国側は予想通り「でっち上げ」などと猛反発してみせた。専制国家は事実をねじ曲げる。誰もが上位者の顔色をうかがうが、トップに正しい情報が届いているかは分からない。
中国首脳に耳の痛いことを伝えてこそ日中会談の意義があるが、歴代首相にそれができていたのか。作家の門田隆将さんは新著『日中友好侵略史』で、危機感をあらわにする。「『安倍晋三』という中国への巨大な壁だった政治家を失った日本は今後、さらに中国による蹂躙(じゅうりん)が進むのだろうか」。
岸田文雄首相は、習氏との会談を模索しているとされる。言うべきことをきちんと言う覚悟が問われる。
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2022年9月3日付産経新聞【産経抄】を転載しています