4月15日の韓国総選挙で、文在寅政権の与党(共に民主党、共に市民党)が圧勝し、300議席のうち180議席、5分の3を占めた。それに左派小政党(正義党6議席、開かれた民主党3議席)を加えると、189議席になる。それに対して保守系の第1野党(未来統合党)は103議席、中道野党(国民の党)は3議席だった。
韓国の国会は1院制で、本会議か委員会で5分の3の賛成を得ると、法案をいわゆるファストトラック(迅速処理)指定することができる。そうすると、野党の反対で委員会の審議が終わらなくても、議長権限により本会議で採決できる。
与党に悪法制定のフリーハンド
昨年末、二大悪法、すなわち第1野党の同意なしに行われた前代未聞の選挙法改正と、検事、判事をはじめ上級公務員だけを捜査対象とする大統領直属の第2検察である高級公職者犯罪捜査処(公捜処)設置法の成立は、与党が左派小政党の協力を得て5分の3をぎりぎりで確保したため可能になった。
ところが、これからは与党さえ決心すれば、韓国を全体主義へ向かわせる悪法を次々と成立させることができる。憲法改正以外は何でもできるフリーハンドを韓国民は与党に与えたのだ。いや、憲法改正さえ、公捜処がすでに国会法違反などで起訴されている野党議員を次々と逮捕すれば可能だとみる専門家も多い。
韓国の憲法改正は国会議員の過半数か大統領が発議し、在籍議員の3分の2の議決を経て国民投票にかけられる。逮捕された野党議員の有罪が確定すれば欠員となり、在籍議員数が減るので、改正案の議決に必要な在籍議員の3分の2も連動して減ることになる。
保守派の反転攻勢に注目
文在寅政権側は今回の選挙の争点に親日派処分を持ち出した。それに呼応して昨年夏、反日デモを組織した左派団体が勝手に未来統合党の黄教安代表、羅卿瑗前院内代表ら野党候補8人を親日派として指定し、落選運動を行った。指定の理由には、反日史観を批判したベストセラー書物『反日種族主義』への賛同発言も含まれている。8人のうち6人が今回落選してしまった。
一方、慰安婦は性奴隷だったという虚偽を二十余年間、内外に拡散させて日韓関係を悪化させた主犯である挺対協(挺身隊問題対策協議会、現在は改称して、日本軍性奴隷制問題解決のための正義記憶連帯)の尹美香代表は与党比例代表で当選した。
落選運動を展開した反日団体は親日発言の処罰、親日派の財産没収・受勲取り消し・国立墓地からの埋葬者移送を実現する反日法制定を求めており、選挙中のアンケートで与党候補の25%が賛成している。親日発言を処罰する新法が成立して『反日種族主義』の編著者、李栄薫前ソウル大学教授らが逮捕されるという悪夢が実現する危険さえ出てきた。
韓国保守派ジャーナリスト趙甲済氏は「今回の選挙で韓国民が審判される。政権側が勝てば韓国は(左派独裁の)ベネズエラの道を進む」と選挙前に語っていたが、韓国民はいったんその道を選択したことになる。今後、自由民主主義を信奉する保守派がどのように反転攻勢をかけるのかに注目したい。
筆者:西岡力(国基研企画委員兼研究員・麗澤大学客員教授)
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国家基本問題研究所(JINF)「今週の直言」第674回・特別版(2020年4月16日)を転載しています。