政府は10月8日、日本学術会議を行政改革の対象と位置づけた。日本学術会議をめぐっては、役割や組織の在り方がたびたび問題視されてきた。政府や自民党には、不透明な会員の推薦方法や安全保障関連の研究を否定する姿勢に不満が高まっていたが、過去の政権中枢も「恨まれるだけで何のメリットもない」と漏らすなど、長らく改革が手つかずになっていた。
「学術会議と国との距離の取り方に一石を投じた。適切な距離感を改めて考える機会にすべきだ」
元学術会議会員の小松利光九州大名誉教授は、菅義偉首相による推薦者6人の任命見送りをこう評価した。小松氏は「任命見送りは学問の自由の侵害にあたらない」と指摘。現役会員が後任を指名できる現行制度についても「現会員による恣意的な選考となる可能性を含んでいる」と語り、再検討するよう求めた。
会員の任命手法は、平成16年に現役会員が後任を推薦する現在の方式に改めることが決まった。以前の学会推薦方式は、特定の学術団体の利益代表の集まりになる懸念があったからだ。
しかし、それ以後も推薦の理由が不透明で派閥化しているとの指摘は消えない。ある私大の男性教授は「推薦は学閥によって行われ、選んだ理由もよくわからない」と厳しく語る。
防衛関連の研究を否定する姿勢にも批判がある。先端研究を助成する防衛省の制度について、学術会議は平成29年の声明で「政府による介入が著しく問題が多い」と強調。学術会議幹部が採択事業を辞退するよう大学側に迫る動きもあった。防衛省幹部は「学問の自由を否定しながら、今回の『学問の自由を脅かす』と批判するのは理解できない」と首をかしげる。
その一方で、学術会議は27年に中国科学技術協会と相互協力する覚書を締結した。同協会は中国軍と密接な関係があり、軍事技術が流出する懸念もある。
改革の機会はこれまでもあった。政府の総合科学技術会議が15年にまとめた報告書では、学術会議について「国家的な設置根拠と財政基盤の保証を受けた独立の法人とすることが望ましい」と指摘し、10年以内に組織運営の在り方を検討すべきだと明記した。
しかし、改革は現在まで進まなかった。歴代政権が「学問の自由への侵害」といった反発に尻込みしたからだ。運営に税金が投入される公的機関である以上、不透明な組織運営を検証し、ただすための行革は不可欠といえる。
筆者:大島悠亮、児玉佳子(産経新聞)