コニカミノルタプラネタリウムの直営館は最新設備を投入して映像の美しさにこだわる。
大人に向け「癒やし」や「心地よさ」を提供。ソファでもくつろげる。
写真はコニカミノルタプラネタリウム満天NAGOYA
=名古屋市(同社提供)
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主に教育目的で開設が進んできた日本のプラネタリウムだが、現在は新たなサービス分野を開拓している。「大人の癒やしスポット」をテーマにしたエンターテインメント型プラネタリウムが続々と誕生。持ち運び可能な移動式の「モバイルプラネタリウム」は、コロナ禍で新たなニーズが生まれた。新世紀のプラネタリウムは進化を続けている。
寝転んで
ランタンの明かりが浮かぶ中、会場に敷かれた芝生に寝転んで星空を見上げる。ふかふかのソファでは肩を寄せ合うカップルも…。
そんなムードあふれる雰囲気を演出するのは、コニカミノルタプラネタリウム(東京)が運営する施設だ。プラネタリウム装置のメーカーだが、プラネタリウムの運営にも乗り出し、東京や名古屋、横浜で趣向を変えた計5館が開設された。
「『(プラネタリウムは)子供の学習施設』のイメージを変えたくて、科学館などとあえて差別化を図った」。同社営業統括部の宮川由貴さんはその意図について説明する。
星や宇宙をテーマとし、コンピューターグラフィックス(CG)や実写を組み合わせたオリジナル映像作品の上映が中心。また、人気俳優を起用したストーリー性のある作品など、大人向けの内容になっている。
上映中にカフェメニューの持ち込みが可能な施設もあり、星空をバックにしたクラシックコンサートや人気アーティストのライブも開かれている。これまでのプラネタリウムにない試みで、新たな客層を掘り起こしている。
「コロナ禍の影響か、星空に定評がある南米・ボリビアのウユニ塩湖やニュージーランドなどをテーマにした旅行気分が味わえる作品が人気だった」と宮川さん。夜間営業もあり会社帰りにも利用しやすいといい「星に興味のない人が星に触れるきっかけになれば。そんな役割があると思っている」と話す。
出張星空
折り畳み式で空気圧で膨らむ直径4~7メートルのエアドームを持ち込み、ドーム内でプロジェクターなどを用いて星空を再現する移動式のモバイルプラネタリウムも広がりをみせている。一般的な規模は定員20~60人で、屋内ならどこでも楽しめる手軽さが人気の理由だ。
日本プラネタリウム協議会(JPA)によると、平成22年度にモバイルプラネタリウムを観覧した人の数は1万4千人、投影回数は527回だったが、26年度はそれぞれ4万3505人、1359回と3倍近くに増えた。
機械やソフトウエアの性能が上がり、固定施設と同等の内容が可能になっているほか、プラネタリウムの歴史が長い日本では解説を担える人材が一定数いることも利用が広がっている要因という。プラネタリウムの施設が事業を行うケースもあるが、移動式を運営する専門業者もいる。
元姫路科学館の学芸員で現在はモバイルプラネタリウム事業を手掛ける「関西モバイルプラネタリウム」代表の小関高明さん(69)によると、コロナ禍で変化もあったという。
「以前はデパートや大型スーパーなど商業施設での開催が多かったが、最近は特別支援学校や幼稚園などでの依頼が増えた。外出ができないので出張が重宝されている」といい、今後定着する可能性もありそうだ。
映像作品
さまざまな形態が登場しているプラネタリウム。近年、星空をテーマとした映像作品の上映も増えてきた。
作品のラインアップをみると、人気アニメのキャラクターを活用した子供向けから、ゴッホなど芸術家が描いた星空などを題材として解説するアート系、小惑星「イトカワ」への着陸を成功させた小惑星探査機「はやぶさ」などの活躍から天体を紹介する科学系まで多岐にわたる。
完成度の高い映像作品は、手間を掛けず魅力的に星空の世界を紹介できる点がメリットだ。
そのなかで、学芸員の生解説だけで勝負しているのが名古屋市科学館。全国の観覧者数上位施設のトップを走る、業界では有名な施設だ。JPAによると、コロナ前の平成31(令和元)年度は同館と大阪市立科学館が1、2位を占めた。
いずれも集客が見込みやすい大都市の施設で、名古屋市科学館についてはドームの規模が世界最大級という施設自体の魅力も大きい。一方で両館に共通するのは、天文学に精通した学芸員の数が充実し、最新の研究成果をわかりやすく発信している点だ。
名古屋市科学館の毛利勝廣学芸員は「集客を第一の目的とせず、内容を高めて長年継続していくことが大事」と話すが、来場者実績はその活動が支持されているともいえそうだ。
大阪市立科学館の渡部義弥学芸員も「学ぶのは子供だけという考えは社会の大損害。学ぶ楽しさを知り、90歳や100歳になっても勉強してほしい」と力を込める。
時代とともにサービスを変化させてきたプラネタリウム。支える人々の熱意が根底にあるのは変わらない。来年は誕生から100年。新世紀もプラネタリウムは進化を続けそうだ。
筆者:北村博子(産経新聞)
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