~~
太陽光発電を活用して脱炭素社会の有力な燃料である水素を作り出す山梨県の取り組み「パワー・ツー・ガス(P2G)」が、新しい局面に突入した。もともと県有地に設置した大型太陽光発電設備ありきだったが、今度は水素生成のシステムに重点を置く新しい取り組みを本格化した。長崎幸太郎知事が強調する「水素といえば山梨」定着の加速を図る。
きっかけはバブル崩壊
山梨県のP2G事業は、甲府市南部の県有地である米倉山(こめくらやま)に設置している大規模な太陽光発電設備が中核施設だ。もとをただせば、平成の初めに企画した企業誘致の用地として造成した場所。バブル経済崩壊と重なり、進出企業がない中、山梨県の日照時間の長さを生かし、東京電力(現・東京電力ホールディングス)との協力事業として大規模太陽光発電設備にしたのが始まりだ。
ただ、単に発電するだけではなく、再生可能エネルギーのさまざまな活用方法を探ってきたことが、山梨P2G事業へとつながってきた。
水素を液化して運搬
特に、昼間しか発電できない太陽光発電の弱点を補うことが主眼だった。県新エネルギーシステム推進室の宮崎和也室長は「蓄電に関連した技術プロジェクトを複数取り組んできた」と説明する。中でも「太陽光電力を水素にしてエネルギーを貯蔵する」(宮崎氏)方式だ。
今年6月から取り組んでいるP2G事業は、米倉山で発電した太陽光発電電力を使って、固体高分子型と呼ばれる水分解技術で水素を発生させる。石炭などの化石燃料を使わない「グリーン水素」だ。その水素を液化して、専用タンクに貯蔵したり、トレーラーで需要地に運ぶ。すでに、県内のスーパーマーケットに供給し、燃料電池用燃料として電力供給に活用している。
水分解装置を大型化
これに続くのが、県と東レ、日立造船、三浦工業などと連携する共同事業体「やまなし・ハイドロジェン・エネルギー・ソサエティ(H2-YES)」による新実証事業。P2Gで採用されている固体高分子型の水分解技術をベースに、従来の10倍程度の大型の水分解装置を開発する。
大量に生成した水素は、ボイラーなどの燃料にすることを想定している。重油や天然ガスは燃やすと二酸化炭素が排出されるが、水素なら燃やしても水や水蒸気しか出ない。ボイラーなどの燃料を化石燃料から水素へ転換させることで、脱炭素が可能になる。
燃料としての水素に着目した取り組みは、前例が少ない。このため、政府の脱炭素方針促進の「グリーンイノベーション基金事業」の第1号案件に選ばれるなど、期待が寄せられている。
多様な再生エネ利用
新実証事業と従来のP2Gで異なるのが、電力供給のあり方だ。従来のP2Gはあくまで米倉山の太陽光発電の電力によるものだったが、新実証事業では、水分解装置にさまざまな再エネ由来の電力を供給するため、一般的な電力系統を通じて供給する。太陽光だけでなく、水力、風力、地熱などの再生エネが多様に使えることになる。
これにより水素を液化して運搬する必要がなくなる。状況によっては必要な分だけ水素を作ればよく、貯蔵も不要で、脱炭素の最大の課題でもあるグリーン水素コスト引き下げにも貢献する。
また、宮崎氏は「これまでのヘリウムなどを使用していた半導体や機器の洗浄用にグリーン水素を活用することも想定している」とし、脱炭素の切り札とされる水素の多様な活用を、県としても進めていく方向だ。
筆者:平尾孝(産経新聞)