はるか縄文から伝わるとも言われる2つの古代布が、手から手へと継承され、いま現在も変わることなく作られているのをご存知だろうか。この秋、これら貴重な自然布である「羽越しな布」と「越後上布」のつくり手たちを迎え、新潟の伝統織物を中心に紹介する小さな展示会が催される。会期冒頭と最終日には機織りの実演やトークショーも開催され、自然と共に生きる人々の姿と、そこから生み出される手仕事を間近で見ることのできる、大変貴重な機会となる。会場には織物のほか、新潟の漆、桐などの工芸品、作家作品など魅力的な小作品が並ぶ。(開催情報は文末参照)
山がそのまま布になった − 羽越しな布
山形との県境、新潟の最北端に位置する村上市山北地区。「羽越しな布」は、その山奥深いところにある集落 山熊田で、1年を通し日々の営みの中で作られている。山に自生するシナから樹皮繊維を取り出し、糸を績み織り上げる。丈夫で水に強く、実用のための織物として重宝され、現在では唯一無二の美しい織物として愛でられている。織りあがった木の色そのままのグラデーションからは、山の香りが立ちのぼってきそうだ。
「羽越しな布」つくり手 大滝ジュンコさん
埼玉に生まれ、アーティストとして国内外で活躍してきたが、山熊田の土地と人の暮らしに魅せられ2015年に移住。文字通り山と熊と田ともに生きる集落の人々と共に、「山で暮らす」ことを選択した。山を敬い、自然の暦に寄り添った集落の営みは厳しく、美しく、心を打つ。山熊田には、かつて日本中で営まれていたであろう人々の本来の生き方が、今なお続いている。
雪国が育んだ繊細な織物 − 越後上布
涔々と降り積もる雪に包まれた、静かな真白の世界。家々から心地よく響く機織りの音−。雪深い新潟の中でも特に豪雪地帯と呼ばれる南魚沼市塩沢では、毎年冬になると3mもの雪が積もり、半年近くも真っ白な雪に覆われる。この地が育んだ麻織物「越後上布」を雪なくして語ることはできない。苧麻から取り出し手績みされた極細の糸は、湿度の高い冬に少しずつ織りあげられ、春のある晴天の日、雪原の上で太陽の光に晒されついに仕上がる。一反できあがるまでおよそ2年。清浄な雪国で何千年も続いてきた営みに心を奪われる。
「越後上布」つくり手 桑原博さん
代々機屋を営む家に生まれ育った桑原さんは、幼少の頃より塩沢織物に触れて育った生粋の織物の人。持って生まれた感性と磨き上げた技術で麻の古代布 越後上布に、伝統の本塩沢、塩沢紬、夏塩沢など先染の絹織物を製作している。
筆者:川越千紗子
◇
《展示会情報》
Takumicraft with IN Gallery
山の織 雪の色
Weaving Mountain, Coloring Snow
会期: 2019年11月16日(土)~24日(日)18、19日休廊
12:00 – 19:00(最終日17:00まで) 入場無料
会場:IN Gallery 東京都世田谷区深沢1丁目11-15
作家イベント: 11/17(日)・24(日)14:00 – 15:30
詳細はタクミクラフトWEBへ
新潟の伝統工芸と繋がる タクミクラフト
タクミクラフトは、新潟の伝統工芸の現在をWEBやSNS、年数回の展示会で紹介するユニット。つくり手の新しい発想から生まれる作品を、デザインや広報などでサポートしている。
タクミクラフト:
Designer パルスデザイン 飯塚由美子
Art coordinator クエルカ 川越千紗子
写真: mika nakanishi, 大滝ジュンコ, タクミクラフト
執筆者プロフィール:
Cuelca クエルカ 川越千紗子
フリーランスのアート・コーディネーターとして活動。タクミクラフト企画・運営。現代美術と伝統工芸の世界で、アーティストやつくり手たちのサポートを行っている。主なプロジェクトに〈三条仏壇×目[mé] 空壇プロジェクト〉、さいたまトリエンナーレ2016 プロジェクトディレクターなど。