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台湾が環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)に加入申請した翌日の9月23日、蔡英文総統は日本の諺をもじってツイッターに「石の上にも五年」と書き込んだ。5年前の2016年、一期目の総統選挙へ出馬した際の公約が実現に向けて動き出したことに、感無量だったことをうかがわせている。台湾はTPPの厳しい加入基準をクリアするため、この5年間、多くの準備を重ねてきた。
中国が先月、先にTPPに加入申請したことは台湾にとって寝耳に水だった。中国はTPPの加入条件を全く満たしていないのが実情。「台湾の加入阻止が中国の本当の狙い」と語る台湾当局関係者すらいる。
「台湾は中国の一部だ」と主張する中国は、台湾が国際社会とかかわりを持つことすべてに反対し、地域的な包括的経済連携(RCEP)発効を前に日本と綱引きを演じる中国は台湾を入れようともしない。
台湾側が最も警戒しているのは、中国が経済力と外交力を背景にTPPのメンバー国に圧力を加え、台湾の加入申請を握りつぶすことにある。今年のTPP議長国は日本だが、来年はシンガポール。同国はすでに中国の加入を歓迎する意思を表明している。来年以降、台湾加入の動きが止まることを台湾側は懸念する。
鄧振中氏をはじめ、多くの台湾関係者はこの問題で日本がリーダーシップを発揮することを期待している。TPP加入の第一関門はワーキンググループを立ち上げることで、日本が議長であるうちに実現すれば台湾には大きな支援となる。
台湾の加入は日本の国益にもかなう。自由と民主主義の仲間が増え、日本への半導体の安定供給にもつながる。
日本には「台湾問題で中国を敵に回す必要はない」「米国の加入を待ち判断すべきだ」といった慎重論がある。中国の思うつぼといえる。経済規模3位の日本が中国を忖度(そんたく)する態度をとれば、TPPのメンバー国の中で、中国に「NO」を言える国は出てこない。今こそ、TPPを取りまとめた日本がリーダーシップを発揮すべきときである。
筆者:矢板明夫(産経新聞台北支局長)