~~
10月4日、北朝鮮が発射した「新型の地対地中長距離弾道ミサイル」(朝鮮中央通信)は、日本列島上空を通過して太平洋に着弾した。飛距離は4600キロで、米インド太平洋軍の拠点グアム島攻撃用と言われている。続いて6日に短距離弾道ミサイル2発、9日にさらに2発を発射した。今年になって既に25回、40発を超えるミサイルを発射しており、明らかに異常である。
目的は、国際社会に北朝鮮を核保有国として認めさせることにある。建国記念日前日の9月8日、金正恩総書記は最高人民会議で「核保有国としての地位が不可逆になった」「絶対に核を放棄することはできない」と述べ、「核戦力政策に関する法令」を採択して核の先制使用を明確にした。
ウクライナ戦争で、国連安保理常任理事国ロシアが核をちらつかせながら力による現状変更を試みたのを誰も止められなかった。核による威嚇は核でしか無力化できない。この現実を金正恩氏は見た。
「核の傘」が破れ傘に
核拡散防止条約(NPT)体制も崩壊寸前にある。五つの常任理事国以外の核保有を認めないこの条約には、核保有国が核軍縮を行い、非核国に対し核の使用、核による威嚇をしないという前提があった。だがこれが崩れた。北朝鮮に核放棄をさせる原則「完全かつ検証可能で不可逆的な解体」(CVID=Complete, Verifiable, and Irreversible Dismantlement)はもはや死文化した。
北朝鮮は2017年9月、「日本列島は核爆弾により海に沈められなければならない」(朝鮮中央通信)と述べており、重大かつ深刻な脅威である。日本は早急に「核抑止戦略」を構築しなければならない。
核抑止には拒否的抑止と懲罰的抑止がある。
拒否的抑止には弾道ミサイル防衛やシェルター整備がある。現行の弾道ミサイル防衛では、不規則軌道をとる新型ミサイルは迎撃できない。これを無効化するには、発射前に地上でミサイルを撃破するか、ミサイルを制御する通信システムや司令部を叩く「反撃力」を持つしかない。日本のシェルター整備に至っては見る影もない。
日本は懲罰的抑止を米国に全面的に依存しているが、北朝鮮がワシントンに届く核ミサイルを完成させた時点で、「核の傘」は「破れ傘」になる。ワシントンを犠牲にしてまで米国が日本を防衛するとは考えられないからだ。同じことが1980年代に欧州で起こった。この時はソ連の中距離核ミサイルに対抗して米国の中距離核ミサイルを欧州に配備し、結果的に中距離核戦力(INF)全廃条約として結実した。日本で同様に対応しようとすると、非核三原則がネックとなる。
通用しない非核三原則
「唯一の被爆国」というのは「特権」でもなければ、敵が攻撃を躊躇するような「抑止力」にもなり得ない。清水幾太郎氏が著書「日本よ国家たれ」で喝破したとおりである。「被爆国」だから非核三原則というのは、もはや通用しない。日本独自の「核抑止戦略」構築に向け、制約のない議論が求められている。
筆者:織田邦男(国基研企画委員・麗澤大学特別教授)
◇
国家基本問題研究所(JINF)「今週の直言」第972回(2022年10月11日)を転載しています