「獺祭」ブランドで有名な旭酒造が日本全国の米生産農家を巻き込み、最高の酒米山田錦を作り、その米で最高の酒を造ろうというプロジェクトが始まっている。
世界各都市に寿司など日本料理のレストランが増えているが、それはここ数十年のこと。レストランや家庭で日本酒を飲むことは海外では始まったばかりだ。その美味しさを知っている人も、まだ限られている。加えてこれまで日本国内の消費に支えられ、ワインほど高価格の日本酒は存在しなかった。
2018年に亡くなったフランスのトップシェフ、ジョエル・ロブションは「獺祭」の美味しさを認め、旭酒造とのジョイント事業としてパリでレストラン「獺祭 ジョエル ロブション」を開業したが、彼が特に強調したのが「獺祭」とフランス料理との相性の良さである。トップシェフ、及び世界の食のシーンを牽引する口うるさい食いしん坊の顧客を満足させる最高の「獺祭」開発を考えるようになったのは、ある意味当たり前の事である。
その為には原料となる酒米、山田錦の品質に一層磨きを掛けなければいけない。旭酒造が日本中の栽培農家に声をかけてプロジェクトへの参加者を募ったところ、200名近い農家が名乗りを上げ、7月25日、大阪に集結した。今後、コンテスト形式で、各農家が競いながら最高の山田錦栽培を試みるという。
今回、全国の山田錦栽培農家が一つの目的の為に集まる事など前代未聞のことだ。米作りの仲間が「獺祭」を飲みながら交流し、情報と価値観を共有し、大いに盛り上がる姿は、過去にない異次元のプロジェクトに参加する期待に溢れており、さながら決起大会といった雰囲気であった。
この盛り上がりから最高の酒米が生まれ、最高の日本酒が出来る。夢のような話である。参加者たちは大まじめに取り組んでいる。数年後になるのかもしれないが、この夢がいつか結実し、異次元の最高級「獺祭」を飲みたいものである。
筆者:渡辺幸裕