東京オリンピック・パラリンピックの開催まであと半年。だが、韓国で東京電力福島第1原発事故と東京五輪を結び付けて揶揄(やゆ)する政治宣伝がまたも登場し、物議をかもしている。ソウルの在韓国日本大使館の建設予定地のフェンスに1月6日午後、東京五輪のエンブレムや「TOKYO2020」の文字、日の丸をあしらったポスターが張りつけられたが、そこには白い防護服姿の人物がたいまつのようなものを掲げて走る人物が描かれているのだ。
聯合ニュースによると、ポスターは聖火リレーの「パロディー」で、放射性物質処理の運搬シーンという。
ポスターを制作したのは、「サイバー外交使節団」を名乗る「VANK」(バンク、Voluntary Agency Network of Korea)。「旭日旗=戦犯旗」と主張する映像を動画投稿サイト「ユーチューブ」にアップしたり、「日本海」と単独表記している各国の教科書や地図、政府サイトを見つけては、「東海」への表記変更を要求する運動などを展開したりする韓国の民間団体だ。
VANKの担当者は聯合ニュースに「『放射能の安全性問題』を提起するため、警告的な意味も込めた」と説明。朴起台(パク・ギテ)代表は、「東京五輪の成功裏の開催とともに、参加選手・観客の安全を祈願するため、パロディーポスターを制作した」とも語った。
「放射能汚染」と東京五輪を結び付け、日本のイメージをおとしめる意図があるのは明白だ。
問題のポスターは1月8日の時点で撤去されている。ただ、VANKはSNS(会員制交流サイト)などでポスターや同様のデザインの「切手」や「コイン」の写真を掲載し、拡散させている。
「放射能」をめぐっては韓国政府も昨年、さまざまな国際会議で福島第1原発の「汚染水」問題を執拗に取り上げ、風評被害をあおるような言辞を繰り返してきた。
こうした動きを踏まえ、安倍晋三首相は昨年末の日韓首脳会談で、文氏に対し、「これまでも、韓国を含む国際社会に透明性を持って情報提供してきており、今後もその方針は不変だ」と説明した。
その上で、首相は韓国が原発事故後、日本産食品の輸入規制を依然として継続していることを念頭に「福島第1原発から排出されている水に含まれる放射性物質の量は、韓国の原発の排水の100分の1以下だ」と指摘。「科学的に冷静な議論が行われるべきだ」と求めた。
福島第1原発では、放射性物質を含む汚染水を処理した後の「処理水」が増え続けているが、これとは別に、原子炉建屋に近くのサブドレン(井戸)から地下水をくみ上げ、浄化後、基準値を下回ることを確認した上で、海に排出している。
政府の小委員会の資料などによると、2016年のサブドレンからのトリチウム排出量は年間約1300億ベクレルだったが、韓国の主要原発である月城原発が16年に液体放出したトリチウムの量は約17兆ベクレルで約130倍だった。
首相が日韓首脳会談で言及した「100分の1以下」は、まだ控えめな指摘だ。
日韓外交筋によると、首相の発言に文氏は反論しなかったという。
在韓国日本大使館はホームページ上で、福島市、いわき市、東京、ソウルの放射線量(マイクロシーベルト/時間)を公表している。1月7日は福島市0.131▽いわき市0.060▽東京0.037▽ソウル0.151で、ソウルの線量は東京の約4倍だった。
いずれも何ら問題のない数値だが、VANKの担当者が言うように、仮に東京に「放射能の安全性問題」があるならば、論理的にソウルは東京の約4倍の安全性問題があることになる。実態を踏まえない非科学的な主張には、科学的・論理的に対抗していくべきだろう。
筆者:原川貴郎(産経新聞政府部)