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早咲きの桜の便りに続き、ソメイヨシノの開花が待ち遠しい。気象情報会社、ウェザーニューズ(千葉市)が3月1日に発表した予想では、全国に先駆けて3月18日に東京、福岡で開花。平年より早まるところが多い見込みだとか。
いつ咲くのか、いつ散るのか。桜の季節を前にすると、そわそわするのはなぜだろう。1000年以上も昔、平安時代の歌人、在原業平(ありわらのなりひら)はこう詠んだ。
《世の中にたえて桜のなかりせば春の心はのどけからまし》
世の中にまったく桜というものがなかったなら、春を過ごす人の心はのどかだっただろう-。今昔を問わず、桜前線に合わせ人の心は波立ったようだ。
「桜の様子がおかしい」
約60年にわたり、桜に関する調査研究などを行ってきた公益財団法人「日本花の会」(東京都港区)に最近、こんなSOSが寄せられている。桜の開花の標本木となるソメイヨシノに変化が起きているという。
同会の上級研究員で樹木医の寺井海樹人(みきと)さん(45)によると、伝染病の「てんぐ巣病」が全国に拡大。枝の一部が膨らみ小枝がほうきのように密集する様子が「天狗(てんぐ)の巣」のように見えるとされ、かかれば花が咲かず、放置すると木が衰弱して枯れてしまう。
「ソメイヨシノ同士で次々にうつってしまうため、拡大しています。とはいえ、100年を超えても花を咲かせている木もあり、適切な手入れをしていないのが原因のひとつです」
オオシマザクラとエドヒガンの雑種といわれるソメイヨシノは、江戸時代末期に生まれた。生育が速く、見栄えのいい大輪を咲かせるため観賞に適していた。戦後間もなく復興を願って全国で植えられ、各地に名所ができた。しかし、それらが〝老木化〟し、枝が落ちたり倒木したりする危険が高まっている。
近頃はソメイヨシノから別品種への植え替えが進む。同会が各地の名所に配布する苗木をソメイヨシノと咲き方や時期が似たジンダイアケボノなどに切り替えてから18年がたつ。
お花見は「森」より「木」に注目したい。気づかぬうちに〝世代交代〟が進んでいるかもしれない。
筆者:榊聡美(産経新聞)
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2023年3月3日付産経新聞【彩時記】を転載しています