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私に届いた内部情報によると、中国・武漢発の新型コロナウイルスによる北朝鮮の死者が3月下旬段階で1万人を超えた。死者が一番多いのは首都平壌という。表向きの死因は「急性肺炎」とされているが、大半がコロナウイルスによるものであると政権中枢では認識されているという。北朝鮮はイタリアを上回り、ウイルス感染による死者が世界最多となった可能性が強い。

 

ところが北朝鮮当局は感染者ゼロとウソをつき続けている。北朝鮮では以前から医療崩壊が進んでいた上、当局がコロナ流行を認めないので本格的な国際支援を受けられず、感染者は満足な治療を受けられない。

 

 

食糧価格高騰で餓死者も

 

一方、餓死者も出ている。1月下旬から中国との国境を完全に遮断した結果、一般住民が糧を得ていたチャンマダン(市場)の価格が高騰し、商人が売り惜しみを始めた結果だ。3月下旬に「全ての住民は新型コロナウイルス感染症を防ぐための国家非常防疫状態を金儲けの機会として利用する者との闘争に団結して立ち上がろう」という政治講演資料が全国に下達されたほどだ。

 

また、1948年の政権樹立以来続けてきた全住民を対象とする思想点検事業「生活総和」が3月下旬に中止になった。金日成時代は月1回、朝鮮戦争中も続けられ、息子の金正日氏が後継者になった1970年代半ばからは週1回、党員は細胞ごと、非党員は所属組織ごと、主婦や被扶養者は人民班ごとに少人数で集まり、自己批判と相互批判、政治学習を行ってきた。帰国した日本人拉致被害者も参加させられていたと聞く。それが、ウイルス感染を防ぐために書面提出に切り替わったというのだ。統制の緩みは計り知れない。

 

金正恩労働党委員長は中国に緊急支援を要請し、3月下旬から米、トウモロコシ、小麦粉、肥料が連日貨車で運び込まれている。支援物資をまず党、軍、政府の幹部、治安機関員に回し、チャンマダンにも放出して価格を下げるという。しかし、その効果はまだ住民に及んでいない。

 

 

独裁体制揺らぐ

 

金委員長の健康状態も良くないようだ。2月に入り、実妹の金与正氏への権限委譲を露骨に進めている。与正氏の指令は首領の指令と見なして従えとする金委員長の命令が出て、「尊敬する金与正同志の指示文」と題する指令文が下達されるようになった。金委員長の警護を担当していた護衛総局が2分割され、第1護衛局が金委員長を、第2護衛局が与正氏を担当するようになった。これは与正氏が首領並みの地位に昇格したことを意味する。

 

「飢えて死ぬか肺炎で死ぬかどちらかだ。黙って死んではいかない」「あの若い2人(金委員長と与正氏)のため国がめちゃくちゃになった」という声が全国に広がっている。治安を担当する国家安全保衛省(政治警察)と人民保安省(一般警察)は暴動勃発を恐れ、3月22日から全国で非常警戒態勢に入ったという。コロナウイルスの蔓延まんえんは経済水準と医療水準の低い国を直撃する。北朝鮮は独裁体制が揺らぐ大打撃を受けている。(了)

 

筆者:西岡力(国基研企画委員兼研究員・麗澤大学客員教授)

 

 

国家基本問題研究所(JINF)「今週の直言」第667回・特別版(2020年3月30日)を転載しています。

 

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