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米国の新旧両政権が「ジェノサイド(民族大量虐殺)」「人道に対する罪」と認定したことで、改めて国際的な関心を集める中国共産党政権のウイグル人弾圧。この問題を取り上げた漫画が世界的な反響を呼んでいる。作者である漫画家の清水ともみさんは「日本も遠い地域の出来事とすませてはいけない。認定をきっかけに一人でも多く関心を持ってほしい」と訴える。
告発 悲壮な覚悟
「ニュースを聞いた瞬間、号泣しました」。清水さんに、知り合いの在日ウイグル人男性から送られてきた電子メールだ。1月19日、米国のポンペオ国務長官(当時)がウイグル人弾圧を「ジェノサイド」と認定したと伝える報道に感動したと書かれていた。
清水さんもそのメールに、もらい泣きした。取材で見聞きしてきた非道な弾圧の実態、それを告発してきたウイグル人たちの悲壮な覚悟が瞬時に思い出され、心を揺さぶられた。
日本ウイグル協会によると、日本で暮らすウイグル人は2000~3000人。故郷の家族とは電話やメールもできない状態がここ数年続いている。日本を含め海外と連絡をしたというだけで「テロリスト」として強制収容所に入れられるためだ。その家族も多くは収容されたり行方不明になったりしているが、安否確認もできない。
中国治安当局から家族を人質に、帰国や同郷者らについてのスパイ行為を強いられるなどの経験をしている人も多い。帰国すれば強制収容が待っている。
現地では、街中どころかウイグル人たちの家の中にまで監視カメラが設置されているが、日本のウイグル人たちも、日常的に盗聴などによる中国当局の監視におびえている。
「それでも彼らは、収容所の家族や同胞を思えば自分たちがひるんではいけないと、死も覚悟して弾圧の情報を発信してきました。ジェノサイド認定は、そんな命がけの行動が確実に実りつつあるということなのです」と清水さんは話す。
中国・新疆(しんきょう)ウイグル自治区では、2017年に「再教育施設」「職業教育センター」(中国政府)と称する強制収容所の建設が始まり、100万人を超すウイグル人が収容され、拷問、洗脳を受けている。女性たちは中絶や不妊手術、漢人男性との結婚を強制され、独自の言語や文化、宗教も禁止されてきた。
ポンペオ前国務長官がジェノサイド認定の発表時に「民族を消滅させようとしている」と述べた通り、ウイグル人たちの訴える弾圧の実態はあまりに過酷かつ大規模で、中国政府の否定・隠蔽(いんぺい)もあって、当初は信じてもらえないことも。それが国連で取り上げられるなどして次第に国際的な関心も高まり、ついにジェノサイドと認定された。
「(認定は)ウイグル人たちが、ようやくたどり着いた『希望』。日本政府にも、彼らが希望を持てるメッセージをお願いしたい」
漫画 世界へ発信
清水さんは令和元年8月に自身のツイッターで、前年に米議会で証言したウイグル人女性、ミフリグルさんの漫画を公開した。理由なく拘束され拷問を受け、この間に引き離されていた生後間もない子供が亡くなっていた-という実体験への反響は大きく、有志らの手で英語など15言語に翻訳され、ネット上で世界中に拡散された。海外の大手メディアでも紹介され、米国務省の公式サイトにも掲載された。昨秋、書籍化された絵本『私の身に起きたこと とあるウイグル人女性の証言』(季節社)を、各地の図書館に寄贈する動きも広まっている。
清水さんが最初の作品をネット上で公開した後、数日間、深夜に自宅のインターホンが鳴り続けたことがあった。「中国に詳しいジャーナリストからは『中国側からの警告の第一段階だよ』と言われました」。先述のミフリグルさんも亡命先のアメリカで同じ体験をしている。
それ以降、清水さんも顔写真をはじめ個人情報の公開を控えるようになった。中国問題では自由な表現活動もはばかられるのが、有形無形の脅威にさらされている日本の実態でもある。
「実は私の漫画にいち早く反応してくれたのは、中国の覇権主義に直面している香港や台湾の方々なんです」と清水さん。1月刊行の新著『命がけの証言』(ワック)には、「どうかこの平和な日本をウイグルのようにしないでください」という在日ウイグル人女性の声が掲載されている。聞き流してはならない重みを感じた。
筆者:杉山みどり(産経新聞大阪正論室)