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ドローンなどの部品に転用できる電子部品を国の許可を得ず中国企業に輸出しようとしたとして、電子機器製造会社が外為法違反の疑いで警視庁に摘発された。輸出されたモーターは民生品として幅広く製造・使用されてきたものだが、実際に中東で軍事転用されていた形跡も確認されている。中国が軍民融合戦略を提唱するなど、民生技術の軍事利用は各国で進んでおり、民生品の輸出管理の難しさが浮き彫りとなった形だ。
「法律に触れないのではと」
公安部が外為法違反(無許可輸出未遂)の疑いで書類送検したのは、東京都大田区の電子機器製造会社「利根川精工」と同社の社長(90)。昨年6月、無許可で「サーボモーター」150個(計495万円)を中国企業に輸出しようとしたとしている。
サーボモーターとは、受信した電気信号を機械的な動きに変換する電子部品。ラジコンカーや産業用ロボットのアーム部分、ドローン、医療機器、アミューズメント機器など幅広く使われている。
外為法では、輸出の際に、安全保障に関連した2つの規制がある。核兵器などの大量破壊兵器に転用が可能な資材の輸出の際に、経済産業省の許可が必要になる物や技術をリスト化した「リスト規制」。リスト規制に該当しなくても用途や需要者によって許可が必要となることを定めたものが「キャッチオール規制」だ。
サーボモーターはどちらの規制の対象にもなっていなかったが、経産省は昨年4月、キャッチオール規制の対象に追加。特定の国や企業に対して輸出する際に経産省の許可が必要となった。
産経新聞の取材に応じた社長は、中国への輸出にあたり経産省に連絡したが、「1カ月半たっても返事がなく中国企業から代金が送られ、中国の軍隊は輸入したものは使わないとメールで言われたため、法律に触れないのではと考えた」とした。
中東で軍事転用
なぜ、幅広く使用されている民生品が規制対象となったのか。そのカギは昨年1月に国連が公表した報告書にあった。
報告書には「TONEGAWA SEIKO」と書かれたサーボモーターの写真が掲載されている。
利根川精工は平成30年11月にイエメンの企業にモーター60個を輸出しようとしたが、経由地のアラブ首長国連邦(UAE)で差し押さえられた。
報告書には、アフガニスタンで墜落したイラン製の偵察用ドローンの残骸からも見つかっていたと指摘。さらにイエメンの親イラン武装勢力「フーシ派」にわたり、軍用ドローンなどに使われる可能性があったと報告していた。内戦が続くイエメンの「紛争を助長している」とも非難していた。
同社の社長は中東でドローン兵器として使われていたことに対し、仕組みが違うため、「ありえない」と反論。その上で、「経産省の指導を受けて40年やってきた。大量破壊兵器に属するといわれたが、私どもはラジコンの部品としか考えていなかったから軽く考えていた」とも明かした。
狙われる日本の技術
公安部によると、利根川精工は平成18年以降、1万1千個のサーボを輸出。香港、UAEにも輸出していた。社長はドローンなどのへの転用は認めていないものの、UAEなどと取引があったことは認めている。
捜査関係者は世界各国で幅広く作られている民生品でも「中東諸国にとって日本の技術は非常に高い」と指摘する。
国際法や軍用ドローンに詳しい京都産業大学の岩本誠吾教授によると、ドローンは軍用といっても高技術の製品もあれば、使い捨てで利用できるような製品まで幅広くあるといい、「テロリストは市場に出回っているものでドローンを作ることができる」と指摘する。
とくにドローンは戦場で低空飛行で侵入し、小型のためレーダーに探知されにくいなどの特徴から費用対効果が高く、イランを中心に中東各地でテロや紛争などに使われているという。
今回の摘発は警鐘になるとした上で、「転売や転用、分解して使うなど規制をかけてもドローンの部品にならないようにすることができるかと言えば難しいだろう」としている。