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中国が建設を進めていた独自の宇宙ステーション「天宮」がこのほど、完成したことによって、宇宙開発をめぐる世界の情勢にどんな変化があるのか。
宇宙開発は、これまで大国間の思惑と競争にさらされてきた。米ソ冷戦時は、人工衛星打ち上げや有人飛行、月探査などで、米国と旧ソ連が激しく競り合った。米国主導で1998年に建設が始まった国際宇宙ステーション(ISS)は日本や欧州各国が参加し、冷戦終結以降にはロシアも加わり、逆に国際協調の象徴となった。
ISSでの成果もある。微小重力や太陽エネルギー、宇宙放射線などの地上とは異なる環境下で、新薬の開発や高齢者医療などにつながる、さまざまな実験を実施。各国監視のもと、宇宙空間の生活だけでなく、地上での暮らしに役立つ試みがなされてきた。運用期間は当初の2024年から30年まで延長される予定だ。
各国の宇宙政策に詳しい東京大公共政策大学院の鈴木一人教授(科学技術政策)は「宇宙開発というのは、シンボリック(象徴的)な意味合いが強い。ISSの運用が停止しても実質的に大きな変化はないだろう」とした上で、「宇宙開発において米国と中国は同じ土俵にいない。段階が違う。米国が20年前にしたことを、いま中国が追いかけている。米国や欧州、日本はすでに月へと目線がいっている。違うゲームをしている感覚だ」と指摘する。
宇宙開発について、鈴木教授は「それぞれの国で宇宙へのイメージがあり、何のために宇宙に行くのかが異なる」とも語る。
例えば、米国は19世紀からの開拓による領土拡大の延長線上にあり、ロシアは、旧ソ連時代は共産主義の優位性をみせるべく取り組み、現在は領土の広がりを求める心理が働いているとする。さらに、中国は建国以来、各国を追いかける立場にあり、宇宙に関しても自国を大国だと認めさせる分野だと位置づけていると分析する。
この中で、日本の立ち位置について、鈴木教授は「まずは(宇宙に関する)国際社会のコミュニティーに入っておくこと。その中で、小さくても存在感をみせる取り組みをどうできるか」とする。
ただ、中国の宇宙ステーション運用をめぐっては懸念もある。鈴木教授が指摘するのは、ステーションへの物資補給などの際のロケットの運用だ。
中国がステーション建設のための物資を運ぶのに使用した長征5Bというロケット。このロケットは、エンジンが多段式ではなく、1段式で、軌道上まで飛行する。巨大なロケットエンジンは物資を運んだ後、地球に落下してくるが、その大きさから大気圏で燃え尽きることなく、残骸が無制御で落下するため、落下場所も分からず、危険な状態にさらされる可能性が指摘されているという。
また、100カ国以上が批准する宇宙条約は、宇宙の平和利用を求め、国家による天体の領有を禁じるが、中国がそうした国際ルールを守る保証はない。鈴木教授は「ロケット発射、ステーション運用については、中国の動向を注意深く見守らなければならない」と話している。