米国のトランプ政権の中国政策の全体図が明確な形で提示された。同政権の顧問役の専門家がトランプ大統領はじめ政権幹部らが公式に表明した過去3年半余の政策の内容や意図を分野別に集大成して分析した結果が8月上旬、公表された。
この対中政策総括はトランプ政権が冒頭から歴代政権の対中関与政策を排して、安全保障、経済、人権など広範な分野で中国共産党政権とあくまで対決し、抑止してきたという強固な基本を明示した。
ワシントンの大手研究機関、ハドソン研究所は中国戦略部長、マイケル・ピルズベリー氏が作成した「トランプ政権の中国政策声明への指針」と題する研究文書を発表した。同氏は中国研究の権威でトランプ政権の非公式の政策顧問の役割を果たしてきた。
同氏の解説によると、「指針」はトランプ政権の対中政策の全体図と特徴を明示するために同政権がこれまで作成、公表してきた政策についての文書や政権高官の言明など数千ページの資料から歴代政権とは異なる部分約200件を集めて、7分野に区分した。
第1部は「米国は初めて中国に勝利している」と題され、トランプ大統領の声明だけを集め、対中政策の根幹の対決基調を明確にした。「勝利」という言葉は同大統領の2018年10月の言明で、歴代政権とは違い、中国に対しては明確に対決と勝利を目指す基本線を約60のトランプ発言から明示した。
第2部は「米国の対中戦略アプローチ」と題し、中国の安全保障面での危険性を定義づけた「国家安全保障戦略」「国防権限法」などの主要点を表示し、トランプ政権高官たちのその解説を紹介していた。
第3部は「力の強い立場から中国に対する」とされ、米国が宇宙を含めての軍事面で中国への優位を保つことの重要性を政府や軍の高官の言明で説明していた。
第4部は「自由で開かれたインド太平洋と『一帯一路』の拒否」と題し、アジア地域での中国の無法な膨張の阻止をうたい、アジアの同盟諸国との連帯と台湾への支援の強化を強調した。
第5部は「経済的屈服の時代は終わった」という題で中国の知的財産盗用や世界貿易機関(WTO)の規則違反など不公正な経済慣行を非難していた。
第6部は「近代最悪の人権危機・世紀の汚辱」と題し、中国の宗教や言論の弾圧、チベット、ウイグルでの少数民族弾圧、香港での国際誓約違反の民主主義弾圧をトランプ政権高官多数の言明で糾弾していた。
第7部は「地球規模のパンデミックの拡散」と題され、中国の武漢から米国はじめ全世界に広がった新型コロナウイルスの大感染は習近平政権の隠蔽(いんぺい)や虚報の工作が原因だとして中国を非難していた。
以上の「指針」は米国歴代政権の中国への融和的な関与政策を大失敗だとオバマ前政権時代に宣言したピルズベリー氏によって作成された点にも特別な意味がある。トランプ政権は大統領以下、対中政策の形成では同氏からの継続した助言を公然と認めてきた。
同指針が明らかにした政策は中国への融和的関与を完全に否定し、正面からの対決を鮮明にし、しかもコロナウイルス大感染の責任を中国に帰するという攻撃の姿勢が顕著なのである。
筆者:古森義久(産経新聞ワシントン駐在客員特派員)
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2020年8月11日付産経新聞【緯度経度】を転載しています