草間彌生(91)、李禹煥(84)、杉本博司(72)、宮島達男(63)、奈良美智(60)、村上隆(58)-。現代アート界のトップスター6人がずらりと並ぶ森美術館(東京・六本木)の「STARS展」が話題だ。7月末の開幕前日、同館で開かれた会見には、最高齢の草間を除く5人が集合。国際的に活躍する美術家たちがいま語る、コロナ禍と社会、コロナ時代の芸術とは-。
まるで惑星直列のように、スター6人が並ぶ空前絶後の展覧会はもともとオリンピックイヤーを前提に企画されたものだ。「世界から来る人々が、最も見たいであろう作家を紹介するものだった」と片岡真実館長。
6人それぞれ、国際的に高い評価を得るきっかけとなった初期作品と最新作を展示。彼らの活動の軌跡をたどりつつ、日本の現代美術史と現在地がわかる構成になっている。「現代アートを知りたい」という日本人にとっても、優れた入口となりそうだ。
コロナの感染拡大で五輪は延期となり、この展覧会自体、緊急事態宣言発令に伴い約3カ月遅れての開幕となった。会見でアーティストたちはそれぞれ、自粛期間中に感じたこと、コロナ後の世界について言及。その言葉からは、芸術家らしい鋭敏さが感じられた。
自然からの警告
「新型コロナというのはものすごく怖いですけども、一つの警告であり暗示である」と語るのは李禹煥。
近年、世界的に再評価が進む「もの派」を代表する作家だ。日本の高度経済成長期、大量生産による弊害が顕在化していく中で「作ることをできるだけ控え、作らない」作品を追求。自然のもの(石や木など)を多用し、もの相互の関係性に意識を向けた彫刻やインスタレーションを展開した。「当時ヨーロッパでこうした作品は単なるブディズム(仏教)、ジャポニスムと批判され受け入れられなかったが、『作ることと作らないこと』に焦点を当て続けることで少しずつ認められてきた」と回想する。
コロナ禍を克服するキーとなるのも「作ることと作らないこと」のバランスと説く。「世界的に開発や生産が数カ月ストップした結果、地球環境が改善されたことは皆さんもご存知でしょう。人間がちょっと控えれば、まだまだ環境は回復できる。最後のチャンスと思って、社会に暗示を与えるようなアートを見せるのが、アーティストに課せられた義務ではないだろうか。僕はできるだけ自分をそぎ落とし、力を集中させて、自然と人間の関係性に注目してやっていきたい」
初期の「ジオラマ」、代表作「海景」、そして2017年開館の「江之浦測候所」まで、人為を超えた時間や太古からの歴史を見つめてきた杉本博司も、こう語る。
「拡大生産を続ける資本主義社会が将来破綻するのは目に見えている。海は汚れ森はなくなり、気候変動も起こっている。人間は動物であり、自分の環境を食いつぶしたら死に絶えるしかない。文明の滅亡も視野に入ってきたいま、自然から警告がきた。ありがたいメッセージだと思い、真摯に対応するべきでしょう」
選別の時代へ
「本当に大切なものがあぶり出された」と語るのは、LEDのデジタルカウンターを使ったインスタレーションで知られる宮島達男だ。ロックダウンや自粛生活でオンラインのコミュニケーションが一気に進んだことが関係する。
「会わなくていい人、行かなくていいところに行かなくても済む。オンラインでいいよね、というアートも結構あったなと。つまり、選別される。厳しいですけど、美術館もそう。本当に見なくちゃいけない展覧会なら皆さん来るだろうし、本物を見なくちゃいけない作品だったらリアルに対峙される」
宮島は2017年から、東日本大震災犠牲者の鎮魂と記憶の継承を願う「時の海-東北」の制作を続けている。被災した沿岸地域の人々にデジタルカウンターのスピードを思い思いに設定してもらうプロジェクトで、目標は3000個。今回は最新バージョンを展示。水盤に719個のLEDが浮かび、719の記憶が暗闇によみがえる。そのおごそかさはやはり、リアルに身を置いてこそ感じられる。
一方、代表作である等身大フィギュア彫刻「Ko2ちゃん(プロジェクトKo2)」が迎えてくれる村上隆の展示は一見、ポップで明るい。最新作の大型絵画「チェリーブロッサム フジヤマ JAPAN」も圧巻だが、村上は「展覧会とかインスタレーションなどはもう、前の時代のもののような気がする」と率直な心境を明かした。
「最近はネットの通販を積極的にやっている。ビジネスでもありますけど、どちらかというとアートを介したコミュニケーションのため」。作品情報を頻繁に発信するなど、オンラインで観客・顧客と密なやりとりを心掛けているという。
コロナ禍の人々を自由に
米ロサンゼルス・カウンティ美術館で大規模個展を予定している奈良美智は、その準備で渡米したため計4週間、自主隔離生活を余儀なくされた。ただし栃木県北部で暮らす奈良の生活パターンは、コロナ前も後も、自主隔離中でさえ変わらないという。
「(コロナの)支障は、社会的に人が人と関わる中で生まれる。だけど自分が家にいるとき、ものを考えているとき、たまにだけど制作しているときには何の影響も及ぼさない。不謹慎かもしれないけど、とても自由な中で自分は生きているって逆に痛感しました」
奈良が描く子供や動物などは一見、親しみやすいが、無邪気さと残酷さが同居したりと見る者の想像をかき立てる。いたいけで不安定に見える主人公は、権力構造から逃れる自由な精神の代弁者でもある。
「何かをつくる人にとって、生活を乱されないこと、自由であることはとても大切。自由の中で生まれたものに、自由は宿る。そんな作品がコロナ禍にいる人々に届いて、自由にさせることができたら、と思っています」
筆者:黒沢綾子(産経新聞文化部)
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「STARS展:現代美術のスターたち-日本から世界へ」は2021年1月3日まで。会期中無休。入館は日時指定の事前予約制。一般2000円、高校・大学生1300円、4歳~中学生700円、65歳以上1700円。問い合わせはハローダイヤル03-5777-8600