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菅義偉政権が台湾海峡の平和と安定を重視する姿勢を強めている。4月の日米首脳会談では52年ぶりに共同声明に「台湾」を盛り込んだほか、新型コロナウイルスワクチンも3回にわたって供与。東京五輪に合わせて来日予定だった台湾のIT担当閣僚、唐鳳(英語名、オードリー・タン)氏との異例の閣僚級対話も調整されていた。最終的に唐氏の来日は台湾側の判断で中止となった。だが、台湾海峡の軍事的緊張が高まっているとの認識に加え、米中対立を背景に経済安全保障や価値観外交を進める上で台湾の比重は増している。
「そんなもの、放っておけばいいんだ」
4月の日米首脳会談を間近に控え、首相は、「共同声明に『台湾』を盛り込めばハレーションが起きる」と説明した外務省幹部にこう語った。当時、声明に「台湾」を明記する案が報じられ、与党内に台湾問題を「内政問題」とする中国政府の反発を懸念する声があった。外務省幹部がそうした状況を話したところ、首相は言下に突き放した。
香港「有事」警戒
これ以降も政権は台湾重視の姿勢を強めていく。6月にはワクチン確保に苦しむ台湾に対し、英製薬大手アストラゼネカ製ワクチン約124万回分の提供を決定。同じ月に開かれた先進7カ国首脳会議(G7サミット)では、初めて「台湾海峡の平和と安定の重要性を強調し、両岸問題の平和的解決を促す」との文言を盛り込んだ首脳声明の取りまとめを働きかけた。
背景には、台湾海峡で軍事的な緊張が高まっているとの認識がある。米軍幹部が相次ぎ台湾有事に言及し、加藤勝信官房長官も「中台の軍事バランスは全体として中国側に有利な方向に変化し、その差は年々拡大する傾向が見られる」と警戒する。
日米両政府とも台湾有事に介入する明確な意思を示していないが、「台湾重視」を打ち出すことで日米介入の可能性が高まっているとのメッセージを中国側に送ることになる。首相は7月29日に米誌ニューズウィークのインタビューで、台湾有事が沖縄に波及する事態を念頭に「沖縄には多くの米軍基地がある。沖縄を守らなければならない」と強調した。
首相周辺は「香港の状況を見て雰囲気が変わってきた」と説明する。香港での民主派弾圧による「一国二制度」の有名無実化で、台湾が次の標的になるとの見方だ。麻生太郎副総理兼財務相は「香港で起きたことが台湾で起きない保証はない」と警鐘を鳴らす。
半導体供給の重要拠点
米中対立の中で経済安全保障の重要性が意識され、「産業のコメ」とも言われる半導体のサプライチェーン(供給網)を維持する上でも台湾の重要性が高まっている。
米中対立は自由主義と権威主義の体制間競争の様相を帯びている。台湾への対応は、米国を中心とした同盟国、友好国のネットワークにとって試金石となる。政府高官は「民主主義の台湾が見捨てられれば、インド太平洋地域の国がそろって中国になびきかねない」と危機感を強める。
筆者:大島悠亮、杉本康士(産経新聞)