新型コロナウイルスによる感染拡大で世界の分断を危惧する声が多いなか、 ファーストリテイリング(FR)会長兼社長の柳井正氏は、世界のつながりを実感したと強調する。コロナ禍で超情報化社会が到来し、今後はアジアが成長の中心になると予想する柳井氏は、日本の若者に、危機をチャンスに変え、起業家精神を持って世界に雄飛してほしいとエールを送る。
-コロナ禍をどう受け止めているか
感染症がこんなに早く世界中に広がるというのは有史以来初めてのこと。皆さんは(コロナ禍で)世界が分断されると言うけれど、僕らは反対に、世界がつながっていることを実感した。
事業で社会貢献を
-感染拡大の前後でどんな変化を感じるか
10年かけて来るべき新しい世界が、ぱっと来た。情報が瞬時に伝わる超情報化社会になり、互いのことがよく分かるし、情報を利用しないと今後生きられない。自分たちの本業に、その技術をどう応用するかを考えねばならない、そういう世界になった。
新型コロナウイルスにかかって、ひょっとしたら自分も死ぬんじゃないかと世界中の人が思った。そして自分の仕事は何のためにやっているのかとも、特に将来のある若い人は思っただろう。だから僕は、コロナ禍以降、各自が原点に立ち戻り、将来的に自分の事業で社会貢献ができるかということを考える局面になったと感じている。
各国の経験を共有
-グローバル企業は痛手を受けたのではないか
外部の人が思うのと反対に、『ユニクロ』をグローバルで商売していてよかったなと思った。米国や欧州、東南アジア、中国の各国で多くの店が閉まった。僕たちは生活の基本要素、衣食住の服を扱い、生活必需品も多い。できる範囲で営業するのが基本と考えているが、各国各地の成功・失敗事例と、その経験を共有できた。
-経済のグローバル化は続くのか
(この状況下で)日本の国内だけで一貫してやるというのは非常に危険だと思う。コロナ後の世界では成長の中心はアジアになると改めて思った。今後成長するのは米国でも欧州でもない。日本はアジアの一部で、ともに今後成長しようと思ったら日本はそこに入っていかないといけない。独立した精神を持つ国同士が連携策を講じないと、世界中は繁栄しない。自分たちで造り上げる世界の目標やビジョンがない限り、僕は続かないと思う。
新しい社会では社会貢献できる企業でないと通用しない。(商品・サービスが)社会ニーズを満たしていても、社会のプラスになっていないと買う気はしない。これは超情報化社会になった一番の変化だ。
若者は世界に出て
-アフターコロナの日本に必要になるものは
日本にはアントレプレナーシップ(起業家精神)が必要だ。社会のために役立つ企業が社会から一番利用されるという根本原理を思い直さないといけない。世界は広い。日本だけでなく世界的に通用しないとだめで、世界に出ていかないと。若い人が未来を造るにあたって今は最悪だが、最悪の時こそ大きなチャンスがある。やはり、危機こそはチャンス。大きなチャンスとは何であるかを若い人に考えてもらいたい。
-若者に何を求める
すべての人にはそれぞれに異なる使命があると思う。僕は服のことしか知らないが、自分の強みがあることを何年間も何十年間もやっていけば結局、何とかなる。日本人はコツコツ進めて、ある程度のところまでいけるという国民性も、集団の力も持っている。だから、強みを生かして弱みは出さないようにする。僕も無駄な時間を過ごしたが、使命に従って進んでいけばいい結果になるんじゃないかな」
聞き手:日野稚子(産経新聞)
【プロフィル】柳井正(やない・ただし)
昭和24年、山口県宇部市生まれ。71歳。46年、早稲田大学政治経済学部卒業。同5月、ジャスコ(現イオン)入社。47年8月、小郡(おごおり)商事(現ファーストリテイリング)入社。59年6月、広島市内に「ユニクロ」1号店。同9月同社社長に就任。平成3年9月、現社名に変更。17年9月から現職。