South Korea's President Moon Jae-in on state visit in Austria

Austrian Chancellor Sebastian Kurz welcomes South Korea's President Moon Jae-in for a meeting in Vienna, Austria June 14, 2021. REUTERS/Leonhard Foeger

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文在寅(ムン・ジェイン)大統領は英国でのG7首脳会議に出席した後、オーストリアを訪問した。韓国大統領としては史上初めてという。オーストリアでの話は、クルツ首相とランチを共にしたとか、ドイツの製薬会社に電話しワクチン開発で協力を頼んだといったことくらいで、とくに関心を引くものはなかった。

 

ところが韓国の大統領官邸当局がこの訪問を紹介した国内でのネット広報(インスタグラム)で、韓国の国旗と並んでオーストリアの国旗を掲げるところを誤ってドイツの国旗を掲げる、とんでもないミスをやってしまった。

 

オーストリアは第二次大戦に先立つ1938年、ナチス・ドイツに併合されている。1945年のドイツ敗戦後は戦勝国である連合国の米ソ英仏による分割占領時代を経験し、独立したのは1955年だった。両国のそんな歴史も知らず(?)、オーストリア国旗に代わってドイツ国旗を掲げるとは。

 

韓国メディアは「これはオーストリア政府が韓国大統領の訪問に際し韓国の国旗に代わって日本の国旗を掲げたようなもの」と嘆き、かつあきれていたが、今回、韓国がオーストリアと“共有”すべき過去の歴史について、いかに無知、無視、冷淡であるか、人ごとながら大いに気になった。

 

まず韓国の初代・李承晩(イ・スンマン)大統領(1875~1965年)のフランチェスカ夫人はオーストリア出身ではなかったか。日本統治時代、海外亡命中に知り合った間柄で、大統領夫人は韓国では“国母”といわれた。今回、文大統領がオーストリア首相との歓談でそんな“歴史的な縁”を話題にしたという話はない。北朝鮮の侵略と戦った親米・反共の李承晩時代を評価したくない左派・革新系の文大統領には、そんな発想などまったくなかったのだろう。

 

それよりも韓国が知らなければならない歴史は、オーストリアが韓国と同じく戦後、連合国の分割占領を受けながら分裂、分断はせず、統一した中立国家として独立したことだ。南北分裂で同族が血を流し合う戦争までした韓国(朝鮮半島)とは大違いなのだ。

 

当時、ヨーロッパはアジア以上に米ソ対立が激しく、オーストリアにも分断の危機はあった。それを克服したのは国内でのイデオロギーや党派の対立を超えた「オーストリアとしての一体感」だったといわれる。問題を他人のせいにせず、自分たちの政治的合意で統一を維持し独立を実現したのだ。

 

韓国ではよく日本に対し「ドイツに学べ」というが、オーストリアは独立後、ナチス・ドイツ併合時代のことを対外的には反省し謝ったという説を耳にしたことがある。オーストリアにも反ナチ運動はあったが、それをもって解放後のオーストリアが韓国のように戦勝国の立場に立とうとしたような話は聞いたことがない。ナチス・ドイツの一員というのは明確だったからだ。

 

したがって帝国日本の一員だった韓国は、歴史的にはオーストリアとよく似ている。にもかかわらず両者は解放後、まったく異なる歴史を歩んだのはなぜだろう。あれほど歴史が好き(?)な韓国人が今回、オーストリアの貴重な歴史的経験に耳を傾けるチャンスを逃したようだ。

 

筆者:黒田勝弘(産経新聞ソウル駐在客員論説委員)

 

 

2021年6月27日付産経新聞【から(韓)くに便り】を転載しています

 

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