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シティーホテル並みの高級感を出した「進化系ビジネスホテル」が増えている。稼働率一辺倒から客室単価の追求へ戦略転換が進む宿泊業界において「泊まるだけのホテル」からの脱却が最重要課題となっているからだ。機能やサービスを充実させて差別化する動きが相次いでおり「手頃に滞在を楽しめる」と需要も高まっている。
ビジネスホテルの「リッチモンドホテル」は令和4年12月から5年7月にかけて東京や横浜、仙台、長崎など計7ホテルを一気に改装。新型コロナウイルス禍前と比べ数倍の額を投じた。「顧客の体験価値を高めるのが最大の目的だ」と運営会社の担当者。東京・墨田区のホテルでは約60の客室を読書やゲームに没頭できるコンセプトルームに替え、改装後に客室1室当たり単価を3割も上昇させた。一方で京都市内の2ホテルでは連携を強め、8月から朝食やラウンジを宿泊客が相互利用できるようにし、日替わりのワークショップも充実させている。
ホテル京阪(大阪市中央区)は上位に位置づける「ホテル京阪グランデ」を強化している。南海電気鉄道などが再開発した大阪・難波の新街区に今年3月開業した「ホテル京阪なんばグランデ」には、観葉植物をふんだんに飾った広々としたラウンジを置き、BGMや香りで五感に訴える演出も施した。高級ホテルで導入が多い高価格帯客室専用のラウンジを備え、長期滞在やグループ客などそれぞれのニーズに応じた客室を用意している。同社の山内繁取締役は「目指すのは利用客にとってのサードプレイス(第3の居場所)。出張、レジャーのどちらでも使いやすい、ちょうどよいホテルにしたい」と話す。
住友不動産傘下の「ホテル ヴィラフォンテーヌ グランド 大阪梅田」(大阪市北区)は8月、開業からわずか1年というタイミングで客室の一部を約800平方メートルの複合型スパに大規模改装。大浴場や個室サウナ、人気を集める「酵素浴」などを新設した。1泊2万~3万円半ばとシティーホテル並みの価格帯を示しながら満室の日も多い。「コロナ禍を機に美や健康への意識が高まっていることは、改装で付加価値を高める大きなヒントになった」と担当者は手ごたえを示す。
このほかビジネスホテル大手のアパホテルも近年、プールやバーなど付帯施設を強化。星野リゾート(長野県軽井沢町)が急拡大させている「OMO(おも)」はまさにレジャー客に特化した進化系ビジネスホテルといえる。
出張客をターゲットにしてきたビジネスホテルから共通して聞かれるのは「寝られればよいとするニーズが減る一方、滞在を重視する客が増えている」との指摘だ。背景にはコロナ禍を経た今の宿泊目的の変化がある。都市圏を中心に客室稼働は改善しているが、利用客の目的は出張からレジャーに移っている。
円安がインバウンド(訪日外国人客)の宿泊消費を後押ししており、日本人客もまだ国内旅行が主流で、海外へ足を延ばせない代わりに国内でより上質な滞在を求める傾向が強い。一方で最高級に位置づけられる五つ星ホテルは出店が相次いでいるが、1泊10万円を超えるような宿に泊まる層は訪日客も含めて限られている。「進化系ビジネスホテル」の市場は値ごろ感で支持を集めることで今後も広がりを見せそうだ。
筆者:田村慶子(産経新聞)