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新年の世界を占ってみよう。国際情勢は人間の暦に沿って動きはしないが、ワシントンでも東京でもこの時期に立ち止まり新年の世界を展望することは自然な慣行である。
さて2023(令和5)年の世界では歴史的と呼べるほど激しい変化のうねりが予測される。その激流、奔流を5つに分類して報告しよう。それぞれの動きは当然、相互に絡み合うが、その特徴ごとに分けてみた。
第1は既成の国際秩序への挑戦である。第二次大戦後に米国主導で築かれた国際的枠組みへの敵対的な攻勢は新年も激しく続くだろう。
この国際秩序は国連、北大西洋条約機構(NATO)、日米同盟などに象徴される。当初はソ連共産党政権に敵対されたが、米側の連携は多数を制した。だが、今や中国がこの既成の国際秩序を崩そうと挑んできた。ロシアも似た動きをとる。イランや北朝鮮も反米という形で追随する。
第2は軍事力の役割の拡大である。自国の利益の追求に軍事力を使う国が増えてきたのだ。
ロシアのウクライナ侵略が分かりやすい。ウクライナ側がその侵略を抑える最大手段も軍事力である。中国は南シナ海のスプラトリー諸島に設けた人工島を軍事占拠し、尖閣諸島の日本領海に武装した船を侵入させる。台湾の統一にも軍事力行使の意図を宣言する。新年も国際情勢での軍事要因が大きくなることが確実なのだ。
第3は各国家の主権の強化である。この動きはグローバル化の後退と一体となっている。
新型コロナウイルス感染の大流行で国家間の交流が激減した。それでなくてもグローバル化は米国のトランプ前政権の自国第一主義や英国の欧州連合(EU)離脱で大幅に後退していた。となると各国家は独自の判断をより多く求められる。自主性の発揮、つまり主権の行使の重みが増すわけだ。
第4は政治理念、つまりイデオロギーの重要性の増大である。
米国が先導する国際秩序は自由民主主義、人権尊重、法の支配など明確な政治理念に立脚してきた。その秩序への挑戦は異なる理念を基盤とする。だから既成の国際秩序にとどまる側は民主主義を堅持し、共産主義や全体主義を排することとなる。国家としてイデオロギーの明示を余儀なくされる国際情勢となるわけだ。
第5は経済至上主義の瓦解(がかい)である。
自国の経済の繁栄と他国の経済との協調があれば政治、安全保障、外交などは円滑にいくとする経済最優先の思考が新年には崩れたままになるだろう。ロシアのウクライナ侵略と米欧側の反発は、安全保障や政治の前には経済的要因が「従」になることを実証した。中国は他国との衝突に経済関係を人質や武器として政治利用する。
以上、眺めてくると、新年の国際激流は日本にとって苦手な変動ばかりである。国際秩序、軍事力、国家主権、政治理念、そして非経済的要因の重み、など戦後の日本が背を向けてきた諸課題ともいえよう。であれば、新年の日本は外部からの国難に直面することにもなりかねないのである。
筆者:古森義久(産経新聞ワシントン駐在客員特派員)
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2022年12月25日付産経新聞【あめりかノート】を転載しています