Kenichi Horie 20220327

Kenichi Horie sets sail from San Francisco on March 27, 2022, for his second solo Pacific crossing, this time at 83 years old.

ヨットで単独無寄港の太平洋横断に出発した海洋冒険家の堀江謙一さん
=3月27日、米サンフランシスコ(共同)

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昔の新聞は偉そうだった。昭和37年にヨットによる単独無寄港太平洋横断を成し遂げた23歳の青年を「堀江謙一君」と紹介している。しかも世界初の快挙だったにもかかわらず、「人命軽視の暴挙」などと批判的だった。

 

ところが、到着先の米サンフランシスコで英雄扱いされている話が伝わると、新聞を含めた世の中全体の評価が一変する。航海日誌『太平洋ひとりぼっち』が出版されてベストセラーとなる。石原裕次郎さん主演の映画にもなった。

 

「1600年代以来、日本の政府が採り続けた鎖国に、明確な終止符を打った」。その功績をたたえたのが、堀江さんのヨットの設計者だった横山晃さんである。当時は小型ヨットでの海外渡航は認められていなかった。幕末に米国への密航を企てて果たせなかった吉田松陰と同様に、堀江さんも実は密出国だった。

 

新西宮ヨットハーバーに帰港した堀江謙一さん=6月4日午後、兵庫県西宮市 (安元雄太撮影)

 

あれから60年、堀江さんは再びヨットで単独無寄港の太平洋横断に成功した。前回とは逆に、サンフランシスコを出航して69日間の航海を経て兵庫県西宮市のヨットハーバーに到着した。横山さんの息子の一郎さんが、今回のヨット「サントリーマーメイドⅢ号」を設計した。

 

通信手段さえまったく用意していなかった前回の航海とは違って、現在はソーラーパネルを電源とする衛星電話があり、GPS(衛星利用測位システム)も使える。それでも命がけの冒険であることには変わりがない。向かい風や突然の雨、黒潮に悩まされながらも熟練の技で乗り切った。

 

83歳での太平洋横断はもちろん、世界最高齢での記録達成である。堀江さんは「まだ青春の真っただ中」と豪語する。60年前には誰も想像しなかった、高齢化社会を大いに勇気づけた。それこそ最大の功績だろう。

 

 

2022年6月6日付産経新聞【産経抄】を転載しています

 

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