A coal-fired power plant located in Nanjing Jiangsu Prov China (AP) r

A coal-fired power plant located in Nanjing Jiangsu Province, China. China has the largest installed capacity of coal-fired generation in the world. (AP)

中国江蘇省南京にある石炭火力発電所。中国は世界最大の石炭火力発電所の設備容量を持っている(AP)

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英国のグラスゴーで10月31日から11月12日までの間、国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)が開かれる。

 

地球温暖化防止と、そのための温室効果ガス(GHG)の排出削減をめぐり、先進国と途上国、あるいは先進国間での熱い議論が予想される。今夏の記録的な猛暑をはじめ、山火事や豪雨による洪水など、自然災害の多発による切迫感を背景に据えての開催だ。

 

COP26に先立ち、グラスゴーの大学で講演するスコットランド自治政府のスタージョン首相(AP)

 

削減目標の更新

 

気候変動枠組み条約の締約国は197カ国・地域。COP26には各国の代表をはじめ、非政府組織(NGO)などが参加する。新型コロナウイルスの感染再拡大中の英国での大型国際会議である。今COPの焦点は、2030年に向けてのGHGのさらなる削減の上積みだ。

 

各締約国は「パリ協定」の下、30年時点の自主削減目標(NDC)の定期的見直しと報告が義務づけられている。COP26が、その更新ラウンドなのだ。

 

日本の場合は、パリ協定採択の15年に示したNDC(26%減)を46%減(ともに13年度比)に更新する。この「46%」は、バイデン米大統領が今年4月に主催した「気候変動サミット」で、菅義偉首相(当時)が示した数値である。

 

日本はこの大幅削減を、再生可能エネルギーの拡大と原発の再稼働促進に託すしかないのだが、ともに容易なことではない。

 

主役となるべき原発は福島事故前の54基から33基に減っており、再稼働は10基にすぎない。30年の期限まであと9年。太陽光発電は短期施工が可能だが、既に適地不足を来している。

 

COP26議長国・英国のジョンソン首相(ロイター)

 

張り切る英国

 

COP26の議長国・英国は4月の気候変動サミットの直前に35年までに78%減(1990年比)という高い削減目標を打ち出している。

 

米国の50~52%減(2005年比)、欧州連合(EU)の55%減(1990年比)を上回る英国の削減率には、離脱したEUへの対抗心や温暖化問題での主導権を取り戻そうとする米国への牽制(けんせい)意図が込められているようだ。英国には気候学の本家という自負もある。

 

仏は原子力発電の強化で排出削減をする構えだ。マクロン大統領は10月12日、安全性の高い小型モジュール炉(SMR)の開発推進を表明した。

 

ジョンソン英首相は19日に、2050年までの同国のカーボンニュートラル(二酸化炭素の排出実質ゼロ)達成の具体策として原子力発電の推進や電気自動車(EV)普及を支える充電スタンドの整備補助計画などを打ち出している。

 

日本は第6次「エネルギー基本計画」を22日に閣議決定したが、原子力発電の見込み割合と実態との乖離(かいり)が目立つ。この基本計画などを46%削減の根拠としてCOPで示すしかない日本の立場は苦しい。

 

中国の習近平国家主席とロシアのプーチン大統領

 

覇権と気候変動

 

欧米諸国が脱炭素化へのアクセルを踏むのは、単に地球温暖化防止のためだけではない。むしろ、化石燃料への決別というエネルギーシフトとそれに伴う新産業革命を通じて世界の覇権を握ることに、重きが置かれていると見るべきだ。

 

ソ連崩壊で世界のパワーバランスが崩れた翌1992年にCOPの母体となる「国連気候変動枠組み条約」が採択された歴史を思い起こすべきである。

 

あの時点から温暖化防止の国際会議の裏面では二酸化炭素を戦略手段とする世界経済大戦が展開中なのだ。米国は削減の輪を脱して成長を維持し、途上国の立場を活用した中国は経済大国に躍進した。貧乏くじを引いたのが日本だった。

 

中国・祁連山脈では急速に氷河が融解している=2020年9月(ロイター)

 

10年遅れの中露

 

8月には国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が新たな気温上昇のシナリオを示すなど、脱炭素化への国際機運が一段と高まる方向に諸環境が整えられている。

 

世界最多のGHG排出で独り勝ちしてきた中国でさえ、一応の対策を余儀なくされる情勢だ。習近平国家主席は9月の国連総会で「海外での石炭火力発電所の新設は行わない」と譲歩している。

 

ただし、欧米諸国や日本が2050年のカーボンニュートラルを目指しているのに対し、中国は60年としており、10年遅れの進行。しかも30年までGHGの排出増加を続ける構えだ。

 

COP26でもNDCの削減上積みはないだろう。

 

ロシアも中国に足並みをそろえて今月、カーボンニュートラルの時期を60年に据えた。

 

 

停電と工場停止

 

COP26を前にして中国では停電や工場の稼働停止が多発している。石炭火力発電の抑制などによる電力不足が原因らしい。

 

同様に欧州でも天然ガス価格と電気代の高騰が起きている。無風続きによる風力発電の低迷も影響したようだが、火力発電の削減や再生可能エネルギーへの急速な依存拡大が招いた危機である。

 

日本は資源を持たず、近隣国と送電線やパイプラインで結ばれていない。NDCの呪縛で無理な再エネ拡大や石炭火力の抑制に進めば国民がこうむる痛手は中国や欧州の比ではない。

 

筆者:長辻象平(産経新聞)

 

 

2021年10月27日付産経新聞【ソロモンの頭巾】を転載しています

 

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