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佐渡金山の国連教育科学文化機関(ユネスコ)世界文化遺産登録問題で、米紙ニューヨーク・タイムズがひどくバランスを欠く記事を掲載した。2月21日付で電子版に掲載した「日本は佐渡金山の歴史を一部だけを見せようとしている」と題する佐渡島発の記事だ。
タイトルから分かるように、日本が佐渡金山の朝鮮人戦時労働に関わる歴史を隠そうとしているという韓国側の主張に沿った記事だ。この記事は二つの点で偏っている。
強制労働史観を垂れ流し
第1に、当初は戦中の歴史まで含めて登録申請をしようとしたが、最近になって対象時期を江戸時代に限定した経緯について、現地からの報告であるにもかかわらず関係者に取材していないことだ。韓国マスコミなどが戦中の歴史を隠すために江戸時代に限定したと書いているが、この記事もその見方を無条件で踏襲している。
しかし、時期の限定は、ユネスコ文化遺産審査に関係している専門家からアドバイスを受けて行ったもので、戦中の歴史を意識したものではない。すなわち、明治以降の金山遺跡は同時代の西洋技術を導入したもので世界各地に同じような遺跡があるから遺産価値は小さいが、江戸時代の佐渡金山は独自の手掘り技術で当時の世界でも有数の採掘量を誇っていたので遺産価値が高いのだ。これは現地で関係者に話を聞けばすぐ分かる事実だ。
第2に、記事冒頭で「佐渡の歴史には暗い部分がある。それは第2次世界大戦中、約1500人の朝鮮人が日本の植民地支配の被支配者として鉱山で働くように徴集された時期だ」と断定していることだ。また、佐渡金山で働いた朝鮮人労働者が「強制労働」をさせられたとも書いてもいる。しかしその根拠としては、日本人研究者の竹内康人氏が「100人以上の朝鮮人労働者が鉱山から逃亡を試みたことがその証拠だ」と語ったことだけを挙げている。
一次史料によると、1943年までに募集形式で1005人の朝鮮人労働者が佐渡金山で働き、そのうち148人が職場放棄して逃亡している。記事は「試みた」と書いて、あたかも官憲の厳しい取り締まりがあったかのような印象を与えているが、実際に逃げたのだ。実は戦時動員された朝鮮人の平均逃亡率は約40%であり、佐渡金山の逃亡率は平均より低かった。逃亡の一番の大きな原因は、より待遇の良い職場に移ることだった。内地では若い男性が徴兵で職場を離れたので賃金が高騰しており、ブローカーが朝鮮人労働者の引き抜きを行っていた。
学者の異論を無視
記事は、逃亡者がいたことは強制労働の証拠とならないと論ずる私のような強制労働否定派の学者の主張を全く取り上げていない。それがこの記事が大きく偏ってしまった原因だろう。竹内氏のほか、記事が取り上げた米国、韓国、ドイツの学者はすべて強制労働があったという立場の人々だ。一方、内地人と同じ待遇だったとの反論は全て佐渡住民に語らせている。住民は歴史に無知という印象を意図的につくっているように読める。
筆者:西岡力(国基研企画委員兼研究員・麗澤大学客員教授)
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国家基本問題研究所(JINF)「今週の直言」第892回(2022年2月28日)を転載しています