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温州みかんの栽培で知られる和歌山県有田市。有田川の河口にある港町・矢櫃(やびつ)地区は、海に面した山の斜面に家が密集する独特の景観で、イタリアの観光都市アマルフィを連想させるとSNS(交流サイト)でも評判だが、一方で近年、空き家が増えるなど過疎化も進む。市は民間の屋外照明会社と協力し、港町の空き家を美しくライトアップすることで、移住定住促進につなげるユニークな試みを始めた。
今年8月25~27日の夜、矢櫃地区の民家に色とりどりの鮮やかな照明が当てられた。照明は次第に青と紫の2色に絞られ、地区内の空き家が浮かび上がった。
和歌山弁で「照らしちゃる矢櫃」と題したライトアップイベントで、市と屋外照明会社「タカショーデジテック」(同県海南市)が共同で企画した。
市によると、地区は「有田の秘境」とも呼ばれ、湾を囲む山の斜面に家が並ぶ独特な景観が魅力。地区内は車も通行できないほど道が狭い。
「高台の集落入り口から海岸に続く坂道も急で、生活面の苦労から移住者が少なく高齢化が進んでいる」と市の担当者。
地区の人口は、平成12年の129世帯(319人)が、令和2年には半分以下の60世帯(135人)まで減少。65歳以上の割合を示す高齢化率は50%前後。地区内には旧宿泊施設なども含め建物が約150棟あるが、約60棟が空き家になっているという。
過疎化にスポットライト
今回のライトアップイベントは、タカショーデジテックの古澤良祐社長が数年前に地区を訪れた際、「こんな美しい場所があったのか」と感動し、「白壁の民家も多く、光の演出で魅力を発信できれば」と市に提案したのがきっかけになった。
市と協議する中で、通常の「光のアート」を楽しむ演出ではなく、過疎化で空き家が増えている課題をメッセージとして発信する演出に決めた。
地区内に70台の照明器具を配置。赤、緑、青の3色で無数の色を表現する「RGB照明」で民家などの美しい景色を照らした後、照明を青と紫で空き家だけに絞り、過疎化の現状も表現してみせた。
ライトアップの様子は、動画投稿サイトのユーチューブやインスタグラムでも紹介。市の担当者は「多くの人の目にとまり、移住・定住につながれば」と期待を寄せる。
アマルフィは他にも
昨年5月、千葉県市川市から地区に移住し、「絶景カフェ マキーナ」をオープンした首藤英樹さん(53)は「〝インスタ映え〟する観光の穴場で、コロナ禍でテレワークをするにも理想的。移住者が増えて地域を盛り上げていければ」と話す。
地区で国民宿舎「くろ潮」を経営する古川元康さん(80)も「集落の空き家の増加に危機感を持っている」とし、「ライトアップのメッセージに触れた人が、矢櫃地区に興味を持ってくれることが地域再生の第一歩になる」と効果に期待する。
市は、今後もライトアップの継続を検討している。
和歌山県内では他にも、同様に山の斜面に家が密集している和歌山市雑賀崎地区が「日本のアマルフィ」と呼ばれており、市が近年、古民家を改修し、イタリアのカフェをイメージした交流施設を整備するなど、移住定住促進に取り組んでいる。
有田市の担当者は「移住の希望者に紀州の2カ所の〝アマルフィ〟をめぐってもらいたい」と相乗効果にも期待している。
筆者:西家尚彦(産経新聞)