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経済力を武器に自国の覇権を追求してきたのではないのか。中国の習近平国家主席が巨大経済圏構想「一帯一路」を提唱して10年がたった。
この間、目につくのは、過剰な融資で相手国を「借金漬け」にして港湾などの重要拠点を支配下に置くケースだ。
海路を含めた一帯一路の広範な対象地域を自国の勢力圏とする思惑がうかがえる。日本など先進7カ国(G7)は「自由で開かれたインド太平洋」を軸に、自国主導の国際秩序形成を目指す中国に対抗すべきだ。
一帯一路は、中国から陸路で中央アジアを通って欧州へ至る「シルクロード経済ベルト」と中国から海路で南シナ海やインド洋を経てアフリカ、欧州へと至る「海上シルクロード」の建設構想を指す。
中国政府は10月10日、一帯一路に関する白書を発表した。152カ国、32の国際機関と200件以上の共同建設文書に調印し、参加国などへの累計直接投資額は2013年から22年までで約36兆円に上ったことなどを「成果」として強調した。
しかし、主要参加国のスリランカは17年、対中債務の返済に窮して南部のハンバントタ港の運営権を99年間、中国側に貸与せざるを得なくなった。「債務の罠(わな)」に陥ったのだ。中国にとってのスリランカはシーレーン(海上交通路)の要衝である。中国はインド洋で軍事的重要拠点を手に入れようとしたことになる。
一帯一路の契約内容には不明瞭な部分も多く、各国での債務の全容は把握できていない。事業会社への直接融資など政府発表に盛り込まれない「隠れ債務」も存在するという。
17~18日には、10年を記念した国際会合が北京で開かれた。ウクライナを侵略するロシアのプーチン大統領は出席したが、欧州連合(EU)主要国の多くの首脳は欠席した。G7で唯一、一帯一路に参加していたイタリアも既に中国に離脱の意向を伝えたとされる。
G7は5月の広島サミットの首脳宣言で、透明性や良好なガバナンスなどを備えた質の高いインフラを提供していく方針を確認した。真の発展は、強権でなく自由と公正さから紡がれる。その国の発展に資するインフラ整備支援を日本は主導していくべきだ。
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2023年10月16日付産経新聞【主張】を転載しています