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ホワイトハウスで会談するトランプ米大統領(右)とウクライナのゼレンスキー大統領。激しい口論となった(ロイター=共同)
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4年目に突入したロシアの侵略終結を目指す停戦交渉を巡り、トランプ米大統領とウクライナのゼレンスキー大統領との会談が口論の末、決裂した。
先立つ国連総会では、ロシアによる侵略を巡り、ウクライナと欧州諸国が主導した決議案が採択されが、ロシアと北朝鮮、ベラルーシなどとともに米国が反対票を投じた。
決議はロシアの侵攻が3年も続くことを憂慮し、露軍の即時撤退を求めた。ウクライナの領土保全と主権を尊重した和平の実現や、ウクライナ領でのロシアの重大犯罪への調査と訴追を訴えた。
侵略者ロシアに抗戦するウクライナへの最大支援国の米国による一連の行動は極めて残念だ。
米国が国際法違反であるロシアの侵略を指弾せず、ウクライナの領土保全と主権を軽視したと受け取られかねない。
米国は1994年、ウクライナが保有する核兵器を放棄する代わりに、同国の「領土保全」と「安全の保証」を英露とともに約束したブダペスト覚書を結んだ。米国にはウクライナの安全を保証する責務があることを忘れてはならない。
トランプ氏は、ウクライナに対する軍事支援を続ける必要がある。その上で、「公正で持続的な平和」を希求するウクライナと真摯(しんし)に話し合うべきだ。
主権国家の領土不可侵は国際秩序の根幹だ。それを破ったロシアを非難しないのは、国際社会において米国の信用と威信を損なうことに気付くべきだ。
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米国は、ウクライナを交えずにロシアと停戦交渉を進めている。ロシア非難の決議に賛成することで、プーチン露大統領の反感を買うことを避けたとみられている。だが、侵略者にこうした配慮は無用だ。
ウクライナ侵略をめぐる総会決議は、侵略直後の2022年3月、23年2月にも採択されたが、このときは米国を含む141カ国が賛成した。
今回の総会決議の賛成は93カ国だった一方、棄権した国が過去の倍近くの65カ国になった。米国との関係悪化を恐れる国が棄権したと指摘されている。
一方、国連安全保障理事会では、米国が提出した「紛争の早期終結」を求める決議案が採択された。
この安保理決議には「侵略」などロシアへの批判的な文言はなく、「ウクライナ領土の保全」への言及もなかった。拒否権を持つ英国、フランスをはじめ、非常任理事国のデンマークなど計5カ国が棄権しての成立だった。
米露協調の安保理決議を「弱肉強食の法則が勝ってはならない」とドリビエール仏国連大使が批判したのは当然だ。
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笑いが止まらないのはプーチン露大統領であろう。だが、侵略者をこれ以上利するような状況に陥らせてはならない。トランプ氏とゼレンスキー氏は頭を冷やして協議の席に戻ってもらいたい。
石破茂首相は、先進7カ国(G7)首脳のテレビ会議で「ウクライナに公正かつ永続的な平和がもたらされるには米国の関与が必要だ」と述べた。ならば米国に「正しい介入」を働きかけてもらいたい。
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2025年2月28日付産経新聞【主張】をもとに、3月2日付【主張】の一部を加えて構成しています
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