
廃炉に向けた工事が進む福島第1原子力発電所の1号機
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制度の不具合や問題点が明らかなのに、見直さないのはなぜなのか。理解に苦しむ。
東京電力福島第1原発事故の業務上過失致死傷罪で強制起訴され、1、2審無罪の東電元副社長2人について、最高裁第2小法廷が検察官役の指定弁護士の上告を棄却決定した。
下級審に続き最高裁も「元副社長2人は東日本大震災に伴う巨大津波の襲来を予見できなかった」と認定し、刑事責任を問えないと判断した。検察が「嫌疑不十分」で不起訴にした他の事件と同様、東電旧経営陣の強制起訴も無罪が確定する。

平成16年の検察審査会法改正は検審議決の権限を強め、検察が不起訴とした事件を、審査会が起訴を求める議決を2回出せば強制起訴できるようにした。これまで11事件で15人が強制起訴されたが、有罪確定したのは2事件2人のみ。他は無罪だ。この極端な結果は、制度に問題があることをうかがわせる。
検察が証拠上起訴できないと判断した事件だけに、強制起訴事件の有罪立証が難しいのは当然だ。だが問題の本質は、制度が始まって16年が経(た)ち事件数が蓄積された現在も、分析や検証がなされていないことだ。

見直すべき論点は大きく2つある。1つは証拠上「有罪が推認できる」検察起訴に対し、強制起訴は「法廷で黒白(こくびゃく)つける制度」(過去の検審議決)と、起訴が二重基準に陥っている現状だ。検察が嫌疑不十分で不起訴とした事件の強制起訴は全て無罪確定しており、対象事件を有罪証拠が揃(そろ)った起訴猶予事件に絞るべし、との意見がある。
被告の負担は重い。東電事件は判決確定まで9年かかった。被告の損害は補償されるのか。検察起訴は国が賠償責任を負うが、強制起訴は誰が責任をとるのか。これが第2の論点だ。
被告には審査で弁明機会もなく、防御権が不十分だ。審査過程は非公開で、強制起訴件数や裁判結果も即時開示されない。運用が不透明で、刑事司法の厳密、公平性を毀損(きそん)する。政府は直ちに制度を見直すべきだ。
福島原発事故は重大で不幸だ。刑法の業務上過失致死罪が個人の責任しか問えない限界があるとはいえ、起訴断念への疑問や反発は理解できる。同罪に両罰規定を設け、法人にも刑事責任を負わせる「組織罰」導入も本格検討すべきでないか。
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2025年3月17日付産経新聞【主張】を転載しています
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