
特殊救助隊の森あかね巡査長
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平成23年の東日本大震災を契機に全国警察初の救出救助専門部隊として発足した警視庁の「特殊救助隊」で、唯一の女性として活躍する若手隊員がいる。機動隊などを経て令和5年に同隊に配属され、山岳遭難などの現場で活動に従事。災害の激甚・頻発化が進む中、要救助者対応のスペシャリストを目指して日々、訓練に励んでいる。
命救う方法、日々鍛錬
「頑張ってくださいね。もうすぐ外に出られますからね」
東京都立川市にある「警視庁・東日本災害警備訓練施設」。土砂災害を想定した救助訓練で、特殊救助隊の森あかね巡査長(30)は要救助者役にこう声をかけながら、けがの状態などを確認し、安全に運び出す方法を導き出していった。
要救助者は下半身が木材に挟まれており、救出直後に毒素が体内に回って重篤な状態となる「クラッシュ症候群」のリスクがあると判断。まず、自動体外式除細動器(AED)を要救助者に装着してバイタル(生命活動の兆候を表す指標)を確認しつつ、すぐに心肺蘇生(そせい)ができる状態で木材を除去、担架に乗せて救助した。
震災で隊員に憧れ
森巡査長が特殊救助隊を目指すきっかけとなったのも、東日本大震災だった。
「ヘリコプターで被災者を救助する警視庁の隊員の姿をテレビで見て、自分も隊員として被災地へ行き、力になりたいと思った」。当時、高校1年生。大学進学後、「ほかの人に負けない武器が欲しい」と救急救命士の国家資格も取得した。人命救助に必要な知識や技術、傷病者への対応を学んだ。
現在、約30人いる隊員の中で、女性は1人。身長約155センチとほかの隊員との体格差は大きいが「女性だからできることを大事にしている」。被災者の立場に立ち、物腰の柔らかな対応で、相手を安心させてあげたい-。訓練でも声がけを意識する背景には、そんな思いがある。
サッカーで体力づくり
ただ、現場で男性隊員とともに活動するためには、筋力・体力の強化も求められる。筋力トレーニングは休日も毎日欠かさず行い、体力づくりのため、小学生の時から続けるサッカーにも打ち込む。男女混合のチームでグラウンドを駆け回る一方、「息抜きはお菓子作り」という一面も。
「『特殊救助隊』というだけあって、かなり厳しい仕事が求められる。でもその分、災害の現場に行ったときに、誰かの力になれるというやりがいは大きい。もし、目指したいという人がいれば、諦めずに目指し続けてほしい」。同じ志を持つ後進に、そうエールを送る。

全国唯一の救出救助専門部隊、国内外の被災地で活躍
警視庁の特殊救助隊は東日本大震災などを契機に、全国警察で唯一の救出救助専門部隊として平成24年9月1日、災害対策課に発足した。隊員は重機や船舶などの免許を取得し、災害や水難、山岳遭難などさまざまな状況に対処できるよう、日夜訓練に励んでいる。
都内だけでなく、26年の御嶽山噴火や30年の西日本豪雨、昨年の能登半島地震の被災地にも広域緊急援助隊として派遣された。令和5年のトルコ・シリア大地震など、国際緊急援助隊として海外の災害の現場でも活動実績を積み重ねている。

T平成30年からは全国の警察から研修生を受け入れており、これまでに約40人が参加。同隊の菅原健二隊長(50)は、「地域を超えて顔の見える関係を構築し、各地の救助事例や技術を共有する場にもなっている」と話す。
登用進む女性警察官
警察は女性警察官の採用に積極的に取り組んでいる。令和6年版警察白書によると、5年度に採用された女性警察官は1810人で、新規採用者全体の24・7%を占めた。都道府県警の警察官全体に占める女性警察官の割合は、平成27年度は8・1%だったが、令和6年度は11・7%に増加。幹部への登用も進み、警部以上の階級は平成27年度の349人から、令和6年度は861人と約2・5倍に増えている。
筆者:緒方優子(産経新聞)
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