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昨年のコロナ禍で公演中止となった舞台「ピサロ」が5月15日から、東京都渋谷区のPARCO劇場でアンコール上演される。スペインの征服者によるインカ帝国の落陽を描いた作品。再演にあたり、主演の渡辺謙(61)は「時間が動き出した。シャッターが開いた感覚があった」と話す。
昨年3月、1回目の緊急事態宣言発令のため、舞台「ピサロ」は道半ばで公演中止となった。自身の中では「今はやるべきではない」と納得していたが、今春に稽古を再開したとき、「シャッターが開いた感覚があった」という。「封印していたのかもしれない。秒針が止まっていたのがまた動き出した」
折あしく、今回も緊急事態宣言発令で揺れるなかでの再演となるが「ものすごくポジティブに、公演前には解除されていると考えている。去年のような混乱ではなく、少し落ち着いた中で初日が迎えられたら」と願う。
演じるピサロはスペインの軍人で、インカ帝国の征服者。老境に入っても富と名誉を求め、若木のようなインカ王アタウアルパ(宮沢氷魚)と対峙(たいじ)する。昭和60年の初演時にはアタウアルパを演じたが、再演ではピサロを演じている。「36年前にアタウアルパを演じたのは、一生役者を続けていく覚悟のようなものができたときだった」。その原点に戻ってくる。「今はピサロと共通するものがある。何を得て、何を失うのか。もう何十年も仕事を続けられない。残りで何ができるのか」と話す。
とはいえ、500年前にスペインから中南米に渡った征服者の感覚は、現代人からは遠い。そういう人物を演じる場合は「ジャンプアップする」という。「今の人生、今の自分を捨てて飛び込む。そうでないと、リアリティーが生まれない。スケール感のある物語を演じる醍醐味(だいごみ)」と話す。
作品の魅力について、「自分が演じてきた中でもこれくらいスケール感のある舞台は他にない。鬱屈した時代の中で、この不可思議な世界に向かってくれたら」と笑った。
6月6日まで。問い合わせはパルコステージ、03-3477-5858。
筆者:三宅令(産経新聞文化部)