井上康生氏とNPO法人JUDOsが支援しているベネズエラの2人の選手。左がエルビスマー・ロドリゲスさん、右がアンリケ・バリオスさん。
~~
私が理事長を務めるNPO法人JUDOsは柔道を通じた青少年の育成と国際貢献活動を行っています。常にいくつかの事業を並行して展開していますが、日本で柔道を学ぶ選手の競技活動と生活の支援もその一つです。
現在、我々がサポートしているのは次の5人の選手です。
【Men】
イアン・サンチョ Mr. Ian Sancho [Costa Rica, -66kg category]
ニコン・ザボロチック Mr. Nicon Zaborosciuc [ Moldova, -81kg]
【Women】
エルビスマー・ロドリゲス Ms. Elvismar Rodoriges [Venezuela,-70kg]
アンリケ・バリオス Ms. Anriquelis Barrios[Venezuela,-63kg]
ダボン・ゾレイヤ Ms. Dabonne Zouleiha Abzetta [Côte d'Ivoir,-57kg]
彼らは、日本オリンピック委員会)が主体として行っている「東京2020特別プログラム」の対象者。母国で十分な練習環境が整わない選手たちが、東京五輪の開催国である日本で生活しながらトレーニングを積み、五輪出場を目指しています。このプログラムはオリンピック憲章に基づき、東京五輪に向けて設定され、国内オリンピック委員会とIOCの初めての共同事業例ということです。
我々が支援している選手たちは2017年から順次来日し、東海大を拠点に稽古に励む毎日を送ってきました。この1年は、新型コロナウイルス感染拡大により、一時は練習もままならない日々を過ごすことになりました。しかし、彼らはこの困難を力強く乗り越えつつあります。
ロドリゲスさんとバリオスさんは、国際柔道連盟の世界ランキングで上位に入り、東京五輪の出場はほぼ確実です。ゾレイヤさんとサンチョさんは、大陸ごとに与えられる枠による出場チャンスをつかむことができそうです。しかも、ロドリゲスさんとサンチョさんは東海大学体育学部の学生として勉学に励みながら、ここまで頑張ってきました。
こうした選手たちがひたむきに努力する姿は、我々に喜びと勇気を与えてくれます。彼らが日本で懸命に学び、成長していく姿に我々はエネルギーをもらっているのです。
しかしながら、こうした活動に疑問を持つ人もいるようです。なぜわざわざライバルをわざわざ育てるようなことをするのか? と。
もちろん彼らはライバルに成長するかもしれません。実際、彼らはどんどん実力を伸ばしています。でも、それでいいのです。彼らの成長によって世界の柔道のレベルアップが進み、柔道の発展に寄与することのほうが我々にとって重要なことなのです。
また、彼らが日本での滞在期間を終えたのち、母国に帰ったり、あるいは世界のどこかで柔道を続けていくことで、柔道精神と日本文化が広がっていくことにもなるでしょう。それは柔道を通じた社会貢献にほかなりません。我々の法人の活動目的そのものです。
東京五輪の開催について今、世界的に議論が巻き起こっています。議論が起きるのは当然のことですし、私自身、複雑な感情を抱えながら監督としてナショナルチームを率いているのも本当のところです。
一方でオリンピックには、このように世界中の人々にスポーツと教育を受けるチャンスを提供し、友情を育む機会をもたらしていることをぜひ知ってもらいたいと思います。
実は昨年まで我々は他に5名の選手の日本滞在をサポートしていました。残念ながら彼らは、東京五輪の開催延期とパンデミックにより、志半ばで帰国していきました。現在、彼らは東京2020特別プログラムの対象者ではありませんが、柔道ファミリーであることに変わりありません。東京五輪を機につながった縁を大切に、これからも日本から彼らを応援していきたいと思っています。
筆者:井上康生(NPO法人JUDOs 理事長)