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ミャンマーで国軍がクーデターを起こし、実権を握って8カ月になる。この間、国軍を批判し、弾圧に苦しめられた人々に対する国際社会の支援は極めて不十分だったと言わざるを得ない。
国連総会の一般討論演説は100カ国以上の首脳、代表が演説し、ミャンマー情勢への言及も少なくなかった。だが、ビデオ演説が多かったこともあり、活発な議論に至らなかったのは残念だ。
国軍は今年2月1日、民主政府の指導者だったアウン・サン・スー・チー氏らを拘束し、権力を奪取した。街頭で抗議の声を上げる人々には、無差別銃撃で応じるなど、激しい弾圧を繰り返した。
民主主義を踏みにじる残忍な行為は絶対に認められない。各国首脳は国連の場でこうしたメッセージをもっと発するべきだった。
注目されたのは、ミャンマーのチョー・モー・トゥン国連大使が登壇するかどうかだった。民主政府により任命された大使は、クーデター後の総会非公式会合で、国軍を批判していた。
大使の演説は見送られたが、演説を控える代わりに、同氏の国連大使としての地位を保つという、米国と中国との合意があったと大使自身が認めた。
中国が国軍の後ろ盾となり、国連外交の舞台裏で動いているのは大きな問題だ。国軍への影響力を拡大する思惑があるのだろう。
ミャンマー情勢は、9月下旬にワシントンで開かれた日米豪印(クアッド)の首脳会合でも取り上げられるなど、決して国際社会の関心が低いわけではない。
だが、多くの国々が治安や人権状況に注文を付ける半面、自らが主体となって問題解決に取り組むことを躊躇(ちゅうちょ)している。
国連安全保障理事会や東南アジア諸国連合(ASEAN)と、日本などミャンマーと関係の深い国々が協力し、問題解決のためのメカニズムをつくってほしい。
現地の人権団体によると、クーデター以降、1100人以上が死亡した。民主派が発足させた「挙国一致政府(NUG)」は9月7日、「防衛戦」の開始を表明し、戦闘も辞さない構えだ。
ミャンマーには、少数民族武装勢力との内戦の歴史がある。国軍と民主派の対立が大規模な戦闘に発展する恐れは否めない。日本を含めた国際社会は今こそ、行動を起こすときだ。
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2021年10月1日付産経新聞【主張】を転載しています