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日中韓や東南アジア諸国連合(ASEAN)など15カ国が昨年署名した「地域的な包括的経済連携(RCEP)」が来年1月1日に発効することになった。まずは国内手続きを終えた日中など10カ国で始動する。
RCEPは、参加国の経済規模が世界の約3割を占める巨大な自由貿易圏だ。日本にとっては主要な貿易相手国である中国や韓国と結ぶ初めての経済連携協定でもある。
参加国全体で9割超の関税が段階的に撤廃されるなど、RCEPを活用した自由貿易の推進が日本経済の成長に寄与することへの期待は、当然ながら大きい。
だがここは、RCEPの潜在的なリスクも併せて認識しておくべきだ。中国経済への過剰な依存につながりかねないことである。
米国不在のRCEPは、中国がアジア太平洋地域で存在感を増大させるのに効果的な枠組みだ。中国の牽制(けんせい)役になるとみられたインドも署名を見送っている。
多国間の経済連携が持つ意義の一つは、複数国にまたがるサプライチェーン(供給網)を築くのに有効なことだ。RCEPで対中貿易の自由度が増せば、サプライチェーンにおける中国の位置づけが重要性を増すのは確実だろう。
そこに陥穽(かんせい)はないか。対中依存の大きさを見透かすように、他国に圧力をかけることは中国の常套(じょうとう)手段だ。企業活動にもリスクがある。最近では、新疆ウイグル自治区の綿に、強制労働の疑いがあるとして国際的な批判が強まっている。やみくもに対中事業に傾斜すれば、人権問題などの政治リスクに巻き込まれる恐れもある。
日本政府には、中国の不当な振る舞いを封じるためにもRCEPのような明文化された協定が必要だという声がある。その効果は否定しないが、例えば安全保障上の例外として協定を恣意(しい)的に運用することはないのか。発効後にこうした点を厳しく監視し、RCEPの通商秩序を堅守することが日本に求められる大きな役割だ。
中国がRCEPを適切に順守するかどうかは、これに続いて中国が申請した環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)加入の是非を判断する材料ともなる。TPPは自由化水準がRCEPよりも高く、国有企業の規律など中国には受け入れがたい項目もある。加入を認めるかの検討は、RCEPの実績をみてからでもいいはずだ。
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2021年11月5日付産経新聞【主張】を転載しています