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圧巻だった。史上最年少、20歳5カ月での完全試合、1試合19奪三振の日本タイ記録、大リーグを超える13者連続奪三振の新記録などで度肝を抜いたロッテの投手、佐々木朗希の快投である。
最速164キロの直球、150キロ近いフォークボール、120キロ台のカーブを投げ分けさせた18歳の新人捕手、松川虎生のリードも見事だった。フルスイングで大記録を献上したオリックスの選手らも、どこか楽しそうにみえた。
スポーツの魅力に満ちあふれた試合だったといえる。
佐々木は東日本大震災で家を流され、父と祖父母を失った被災者である。中学時代から注目の投手だったが、自身で東北にとどまることを選択した。大船渡高校(岩手)の国保陽平監督は3年夏の県大会決勝で故障回避のため佐々木を試合に出さず、甲子園出場を逃した。賛否かまびすしい中、師弟の信念は揺るがなかった。
入団したロッテも1年目は2軍戦出場さえさせず、肉体強化に専念させた。昨季も登板は11試合に過ぎなかった。高校時代にすでに160キロの速球を投げた大器を、よくぞここまで温存したものだと感心する。高校で、プロで、周囲が結果を急がず、逸材を壊さず、大事に育てた末の快挙だった。
そこには多くの参考がある。行き過ぎた成果主義は、成長の妨げとはなっていないか。
この週末は、さまざまなスポーツの場面に出合った。WBAスーパー王者の村田諒太はカザフスタンの英雄、ゴロフキンとミドル級王座統一戦で互角に打ち合った。世界王座17連続KO防衛など数々の記録を誇る怪物を相手に最後は力尽きたが、敗戦にも感動があることを改めて教えられた。
ゴルフの祭典マスターズ・トーナメントでは、昨年2月の交通事故で右膝とすねを粉砕骨折したタイガー・ウッズが長いリハビリを経て1年5カ月ぶりに復帰した。痛々しく脚を引きずりながら随所でスーパープレーをみせ、予選を突破して4日間を戦い切った。ウッズは総立ちの観衆の拍手に笑顔で応じ、「つらい日々がたくさんあったが、次に進むことを楽しみにしている」と述べた。あきらめてはいけないということだ。
彼らの才能を誰もが持ち合わせることは不可能だが、教訓や勇気を受け取ることはできる。スポーツは、だから楽しい。
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2022年4月12日付産経新聞【主張】を転載しています