
東京電力福島第1原発事故を巡る株主代表訴訟の控訴審判決が言い渡された東京高裁の法廷=6月6日午前(代表撮影)
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東京電力福島第1原子力発電所の事故を巡り、旧経営陣に東電への賠償を求めた株主代表訴訟の控訴審判決で、東京高裁が株主側の請求を棄却した。
1審では旧経営陣4人に13兆円超の賠償を命じていたが、一転して旧経営陣の法的責任を認めなかった。妥当な判決である。
大きな争点は、平成14年に政府の地震調査研究推進本部が公表した「長期評価」への対応だった。東電の子会社はこれに基づき原発に最大15・7メートルの津波が到達すると試算していた。原告の株主らは、旧経営陣は巨大津波が襲う可能性を認識していたにもかかわらず、安全対策を怠ったと主張した。

これに対し、東京高裁は、事故防止には原発の運転を停止し、津波対策工事を指示すべきだが、長期評価はそのような指示を出す根拠としては不十分で、旧経営陣が津波の危険性に切迫感を抱かなかったのはやむを得なかったとした。
電力事業者は法律上の電力供給義務を負っている。長期評価に明確な根拠に基づく十分な信頼性がない限り、運転を止めるのは困難とみるべきで、旧経営陣に法的責任を認めるのは難しかろう。
今回の判決は、最高裁決定と整合性をとったともいえる。業務上過失致死傷罪で旧経営陣が強制起訴された刑事裁判で、最高裁は今年3月、「長期評価の見解は、津波の襲来という現実的な可能性を認識させるような性質を備えた情報だったとはいえない」などとして、旧経営陣の無罪が確定している。
そもそも1審で命じた13兆円超の賠償は、個人の支払い能力を超越した天文学的な額であり、現実離れしている。

一方で、原発を保有する電力会社は事故を防ぐ責任の重さを自覚し、安全対策に全力を挙げなければならない。福島第1原発事故は複数の原子炉の同時破損という世界に類のない放射能災害だった。ピーク時には約16万人が避難するなど多くの住民が甚大な被害に遭った。
資源に乏しいわが国にとって、原発はエネルギー安全保障上も欠くことのできない基幹電源である。原発の有効活用には安全対策の徹底でリスクの芽を摘んでいく必要がある。電力会社の経営陣は改めてそのことを肝に銘じてもらいたい。
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2025年6月10日付産経新聞【主張】を転載しています
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