
KIBIT紹介動画のスクリーンショット(©FRONTEO Inc)
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トランプ米大統領が、米国内の薬価の引き下げを義務づける大統領令を発表した。薬価とは病院で処方される薬の値段のことで、米国の薬価はOECD加盟国平均の2.78倍、日本の3.47倍にもなる。その高額薬価をトランプ大統領は問題視しているのだ。
日本では、国が価格を決定する「薬価制度」が採用されている。適正な価格を国が審査しているため、日本では比較的安価に薬が手に入りやすい。翻って米国は、製薬会社が自由に価格を設定できるため、他国よりも高額になる傾向がある。
大統領令を受けトランプ氏は、他国の水準に合わせて薬価を「59%から最大90%削減する」と表明しており、製薬業界は大幅な減益が見込まれている。日本の場合、武田薬品工業やアステラス製薬など大手製薬企業の米国売上高比率は軒並み30%を超える。トランプ氏によると、薬価を引き下げない場合、米国外で製造された医薬品には追加関税を導入するという。

薬価高騰の原因は「研究開発費」の上昇
薬価が高騰する理由として大きいのは、創薬のための研究開発費だ。日本企業1社あたりの研究開発費の平均は、1993年が302億円(2億9873万ドル)だったが、2019年には1633億円(11億3396億ドル)と、26年間で5.4倍にもなっている。米国企業はさらに値上がり幅が大きい。1993年の8億4100万ドル(1211億円)が2019年には74億4900万ドル(1兆725億円)で、8.8倍も高騰している。
しかも、研究開発費をかければ新しい薬がすぐにできるというわけではない。新薬が成功する確率は、日本国内のデータによると、20年前は1.3万分の1だったのが、近年では2.3万分の1まで低下している。コストをかけても成果が出ない状態が続き、日米ともに企業の売上高に対する研究開発費の比率は大きく上昇。1993年は10%程度だったが、2019年には18%程度にまで上がってきている。

AI活用で研究開発費を削減できるか
この研究開発費の削減に期待されているのがAIだ。AIを使うことで、研究開発の時間とコストが大幅に圧縮できるからだ。
創薬の過程には①基礎研究・ターゲット選定②化合物最適化③前臨床試験④臨床試験、の4つのステージがある。AI創薬には、さまざまなAIベンダーが参入しており、現在は創薬ステージの後半部分であるサードステージの「前臨床試験」と最終ステージの「臨床試験」のコストを削減している。
しかし、多くの企業がAI創薬に参入しながらも、いちばん肝心なファーストステージである「ターゲット選定」には踏み込めていない。

論文から新薬提案――日本製AI「KIBIT」による革新
このファーストステージへのアプローチを最初に実現したのが、日本企業のFRONTEOだ。FRONTEOは自社開発の自然言語処理AIエンジン「KIBIT(キビット)」に医学・薬学関係の膨大な論文情報を読み込ませることで、開発者が思いもよらない新薬のアイデアを提案している。
人間の考えには、知らず知らずのうちにバイアスがかかっている。先入観にとらわれず、論文からターゲットとなる分子を探し出すのは、手練れの研究者であればあるほど難しい。経験という名のバイアスが「新たな発想」を阻害するためだ。
KIBITには、そうしたバイアスはない。大量の論文の中から、特定の疾病に効く新たな標的分子を探し出し、具体的な仮説まで導き出す。さらに、論文には直接記載されていない疾患関連性の高い標的分子も膨大なデータの中から探し出すので、創薬力は格段にあがる。

AIが「売れる新薬」を創る時代へ
新薬を創れる国は限られている。2024年に日米欧で承認された新薬でみると、1位は米国で143品目。2位は日本だが、米国の10分の1以下の12品目で、3位の英国(10品目)とほぼ同数だ。
また、「医薬品世界売上高上位100品目の創出企業の国籍(2022年)」という統計によると、1位米国(52品目)、2位英国(10品目)、3位スイス(9品目)、4位ドイツ(8品目)、5位デンマーク(8品目)、6位日本(7品目)で、米国以外の国は「売れる薬」をなかなか創れていないのが実情だ。
そんななかで期待されるのがFRONTEOのAI「KIBIT」だ。「KIBIT」によって効率的に革新的な新薬が創れれば、トランプ大統領に言われるまでもなく、必要な患者に適切な価格で薬が届く世界が実現する。
「KIBIT」を使った同社のAI創薬サービスは、すでに複数の大手製薬企業に導入されている。「KIBIT」を使って新薬を生み出す企業が、製薬業界のゲームチェンジャーになるかもしれない。
※本稿はJAPAN Forwardの賛助会員、株式会社FRONTEOの寄稿です
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