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立体的な曲線文が上部に施された水煙文土器(釈迦堂遺跡博物館提供)
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5千年前の縄文時代中期に山梨県の甲府盆地から長野県の八ケ岳山麓一帯の中部高地は、日本で最も人口が多く、文化が栄えていたことは考古学者にとっては常識だが、一般的な認知度は低い。この反省を踏まえ、山梨県の埋蔵文化財関係部署のOBらが中心となって一般社団法人を設立し、この地域の知られざる特徴的な土器を中心とした縄文文化を広く発信する活動を始めた。日本独自の縄文文化に対する海外からの関心も高く、新たな観光やツーリズムのテーマになることへの期待も高まる。
想定以上のスタートに
一般社団法人「縄文文化発信会議」の設立記念イベントとして、1月下旬に甲府市の山梨県立文学館で開催されたシンポジウム。基調講演で元文化庁長官の青柳正規氏は「山梨、長野にかけて出土する多くの縄文土器は、美しく精密な装飾が施されている。現代でも美術品として世界に通用するような文化を作り上げていた」と強調した。
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九州国立博物館初代館長の三輪嘉六氏も「国内で縄文文化といえば三内丸山遺跡に代表される東北地方が有名だが、山梨、長野地域の縄文文化の崇高さが正当に評価されていない」と指摘する。
450人が参加し、会場は満席となったほか、駐車場がいっぱいだったことから、参加を断念した人も多かった。参加者からは「地元の新たな魅力を知った」「もっと縄文文化に詳しくなりたい」など高評価が相次いだ。同会議の長澤宏昌代表理事は「これほどの参加があるとは思っていなかった。想定以上のよいスタート」と喜ぶ。
祈りの中で発展
山梨県から長野県にかけての中部高地で出土する縄文時代中期の土器は、世界的に見ても非常な高水準に達している。同時期のメソポタミア、エジプトなどの土器の文様はほとんどがペインティングされたもの。日本のほかの縄文土器も粘土ひもの貼り付けによる文様表現となっている。これに対し、この地域では内部を空洞にした「中空立体」と呼ばれる大きな取っ手などの立体的な装飾が施される。
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その中でも、ゆるやかで美しい立体的な曲線文が縁の部分に施された水煙文(すいえんもん)土器や、縁に母の顔、胴部に生まれようとする胎児の顔と、出産の情景を文様で表現したとみられる出産文土器などは他にはない特徴的、高度な造形となっている。
長澤代表理事はこれらは「日常的に煮炊きする道具ではなく自然などに対する『祈り』や精霊にささげるものとして発達してきた」と話す。一帯はドングリやさまざまな木の実、シカやイノシシなどが狩猟でき、定住できる温暖な地域だ。この生活を維持できるようにと、自然への祈りから芸術的な面での発展を遂げたとみられている。
インバウンド期待も
このような文化的な資産があることは、考古学者や一部の考古学ファンにとどまっていて、一般的にはあまり発信されていない。長澤氏は「考古学関係者としてきちんと知らせることが義務」と同会議の設立の動機を説明する。
増加を続ける訪日客(インバウンド)が縄文文化に興味を示し、東北地方や北海道の博物館や遺跡を訪れることも増えている。そういった中、世界的に見ても珍しい造形で芸術性も高い縄文土器を核に、山梨、長野の縄文ツーリズムにつなげることも同会議として取り組む。
筆者:平尾孝(産経新聞)
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