岐阜市で、すべて手作業で完成まで2カ月はかかるという芸術品のような和傘が作られている。
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桜の花びらをかたどった日傘

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傘が手放せない季節。置き忘れないコツは、いいものを1本持つことだとか。岐阜市では、すべて手作業で完成まで2カ月はかかるという芸術品のような和傘が作られている。

閉じた姿はすらりと優美。開くと、きれいな放射状の骨に沿い、和紙の張り地が華やかに広がる。

岐阜市の和傘職人、河合幹子さん(37)が手がける和傘は、色とりどり、文様もさまざま。梅雨空に掲げれば雨雲を吹き飛ばしてくれそうだ。

和傘は骨や持ち手が木や竹など天然素材で、ほとんどで張り地に和紙が使われる。童謡で「じゃのめでおむかえ うれしいな」と歌われる、作りを凝らした蛇の目傘、シンプルな番傘、そして日傘がある。

ハリウッド女優も

河合さんを広く世に知らしめた「桜和傘」は、桜の花を再現した形状で、桜色の美濃手すき和紙を張った日傘。6年前、来日したハリウッド女優のために、主演映画に登場する桜の木や桜色の衣装をイメージして作られ、交流サイト(SNS)で大きな話題を呼んだ。

花をモチーフとした和傘は昭和の時代から連綿と作られており、そこからアイデアを得たという。「昭和の和傘って、とてもモダンですてきなんです。色合いは平安時代の衣服の『かさねの色目』を参照して取り入れるなど、昔の和傘から着想して作ることは多いですね」。主宰する工房「仐日和(かさびより)」で人気の「月奴(つきやっこ)」も、昭和初期から受け継がれているデザインだ。

竹製の骨に和紙を糊付けする河合幹子さん=岐阜市の工房「仐日和(かさびより)」

かつては日本各地で作られていた和傘。なかでも岐阜市は、街を流れる長良川の上流が美濃和紙の産地で、良質な竹や油も、川伝いに運び込まれたため、江戸時代には武士の内職として和傘作りが奨励された。

岐阜和傘協会によると、最盛期の昭和20年代後半には、岐阜市周辺だけで年1200万本以上が作られていたという。今も国内最大の産地で、大量生産の洋傘に圧倒されながらも、粋な日用品や舞台の小道具として使われ、インテリアやイベントでの利用といった新たな需要も生まれている。

1人で全工程完遂

河合さんは、分業制が定着している和傘制作において、竹骨を1本ずつつなぐ「組み立て」、和紙を糊(のり)付けする「張り」、和紙に油をしみこませて天日干しし、内側を糸でかがる「仕上げ」までの全工程を1人で完遂できる数少ない職人。機械は使わず手作業だけ。油を塗る工程がない日傘でも2カ月、より手間がかかる蛇の目傘なら2カ月半、完成までに要する。

天候にも左右される。

「天日干しには、夏で4日ほど、冬だと1週間はかかります。合間に雨が降らない時期に集中して干せるよう、常に天気予報を見ています」

和の風情漂う和傘には雨がよく似合うけれど、制作には大敵だ。お天道さまが頼りで、効率性重視の世の趨勢(すうせい)とは一線を画す。組み立て、張り、油を塗り、天日で干す…という作業を、自らの手だけを信じて、ひたすらに繰り返す。1歳の男の子の母親で「今は日中に3、4時間。夜に2、3時間作業するのが精いっぱい」。人気に制作が追い付かない。

古き良き昭和の趣を醸し出す和傘が、令和の暮らしにより身近になることを願う河合さん。目指すのは、閉じた姿が凜(りん)として美しい傘だという。「傘は閉じている時間が圧倒的に長い。閉じた姿勢がきれいでたたずまいが良く、年齢性別、服装の和洋を問わず、長く使ってもらえる傘を、1本ずつ丁寧に作りたい。昔のおしゃれな和傘のデザインや、昔の職人が極めた技に、少しずつ追いつきたい」と意欲を燃やしている。

筆者:田中万紀(産経新聞)

6月20日から東京・表参道の「オークヴィレッジ青山」で、「仐日和」の展示会が開かれる。

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